外国人タクシードライバーに熱視線…運転手不足で外国語でも受験可能に、インバウンドで需要増
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人手不足のタクシー業界で、外国人運転手が注目されている。運転に必要な2種免許の学科試験に外国語を導入する動きが進み、外国人の採用が進んでいる。(岡本与志紀)

深刻な広島交通圏
広島市のタクシー会社「つばめ交通」の車庫で11月21日、米国出身のザッカリー・チャスコさん(29)(広島市西区)がタクシーの運転席に座り、ハンドル操作などを練習した。7月に採用され、今月、2種免許の試験を英語で受ける。「ドライブが好き。早くデビューして街中を走るのが楽しみ」とほほ笑む。
同社は広島市や広島県廿日市市などの「広島交通圏」を営業区域とする。原爆ドーム(広島市)や厳島神社(廿日市市)など県内有数の観光名所を誇り、外国人観光客の利用も多い。同社の担当者は「インバウンド(訪日外国人客)が増える中、外国語で接客できる外国人運転手の需要は高い。業界全体の課題である人手不足対策の一つにもなる」と話す。
広島交通圏の運転手不足は深刻だ。県タクシー協会(広島市)によると、圏内で営業する運転手は、コロナ禍前の2018年度末時点の4688人に対して、23年度末時点は3477人。5年間で4分の3まで落ち込んだ。
進む採用
全国的にも同じような状況にある。国土交通省によると、11年度末時点は38万5021人いたが、10年後の21年度末時点には25万334人に減った。コロナ禍で高齢のドライバーが離職したことも影響したという。
そんな中でタクシー会社は外国人運転手に注目し始めた。
「日の丸交通」(東京都)は、これまでに中国や米国など約30か国の150人を正社員として雇用。全従業員の6%を占める。人手不足の解消策として17年以降に採用に力を入れ始め、〈1〉日本語能力が高い〈2〉永住者や日本人の配偶者など就労制限がない在留資格を持つ――などの外国人を対象に募集。在留外国人の増加に伴い希望者も増えているという。
外国人観光客が多い京都市の「都タクシー」は約1年前から、日本語能力などを条件に受け入れている。
在留外国人の採用支援を行う「ガイダブル」(東京都)によると、同社を通じて外国人運転手を募集するタクシー会社は、20年は1件だけだったが、これまでに延べ約90件に上った。
英語試験導入
国は3月、外国人労働者を中長期的に受け入れる在留資格「特定技能」の対象に、タクシーなどの「自動車運送業」を追加。これを受けて警察庁は、2種免許の学科試験で外国語での受験を可能にした。県警では5月、英語の試験を導入した。
2種免許を取得する研修を行う日の丸交通では、日本語だけだった学科試験の時は、合格までに平均7回受け、最も多い人は83回目の試験で受かったという。同社の担当者は「試験の多言語化で外国人採用の門戸が広がる」と歓迎する。
接客テキストも
試験に向けた技能訓練などに励むチャスコさんは「まずは合格したい。広島の都市部は自転車や歩行者が多いので、安全運転を心がけて、外国人の観光客らが広島で楽しい時間を過ごせる手助けをしていきたい」と意気込む。
業界団体の「全国ハイヤー・タクシー連合会」(東京都)は、タクシー運転手を目指す外国人が接客ルールなどを学べるテキストを作った。浅野茂充労務部長は「外国人の雇用で2種免許の取得は『壁』だった。今後、採用する動きは加速するとみられ、安全教育など研修体制の整備も進める必要がある」と話す。