[地域力]江津市(島根県)…温泉街「まるごとホテル」 「素泊まり+外食」で活気

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斜面に建物が密集する有福温泉街
斜面に建物が密集する有福温泉街

 島根県西部・ 江津ごうつ 市の 有福ありふく 温泉は、古くから山あいの奥座敷として親しまれてきた。近年、過疎・高齢化や災害の影響で廃れていた温泉街を、民間事業者や住民らが再生し、にわかに活気を取り戻している。決め手となったのは、街全体を一つの宿としてとらえ、客をもてなす「まるごとホテル」のスタイルだ。

 温泉街は、山に囲まれたすり鉢状の斜面にある。独特の地形に建物が所狭しと立ち並び、あちこちに石段も入り組む。その景観が「山陰の伊香保」ともいわれるゆえんだ。

有福温泉街で初めて企画した土曜夜市で、今後の催しについて意見を交わす(左から)長友さん、藤田さん、平下さん(島根県江津市で)
有福温泉街で初めて企画した土曜夜市で、今後の催しについて意見を交わす(左から)長友さん、藤田さん、平下さん(島根県江津市で)

 「この非現実的な街並みが魅力。最近はヒッチハイクの若者など、これまで訪れなかった客も引きつけている」。そう言って喜ぶのは、市出身の空間デザイナー平下茂親さん(43)。米国の家具工房での修業などを経験し、2011年にUターンした。いま世話役の一人として同温泉振興会副会長を務め、長期滞在型の宿を営む。

 昭和初期は約20軒の宿があり、大いに繁盛したという有福温泉。やがてその活気は失われ、10年に大火災、13年には豪雨被害と災難も相次いだ。宿は3軒に減った。

 転機となったのは20年度、市と平下さんら事業者が練った再生策「まるごとホテル」がまとまったことだ。その柱は、宿と飲食店ができるだけ分担し、それぞれ宿泊と食事の提供に専念する「泊食分離」の方式。宿の人手と経費を減らせるのに加え、街に人が出歩き、にぎわうという利点がある。

 観光庁の補助事業にも採択され、21、22両年度は老朽化した宿、飲食店など施設の改修整備が進んだ。素泊まり専用や一棟貸しなどの宿が10軒まで増えた。

 21年には広島市の事業者が各宿の食事を担うイタリア料理店とワインショップを同時オープン。今後も2店が進出する。宿泊客にも好評で、23年は1万人余りが訪れ、コロナ禍前の19年の1・6倍に増えた。

 この活況をどう継続させるのか。平下さんは再生策のもう一つの柱として「地域住民も気軽に訪れ、宿泊客と一緒に楽しめるような企画が大事」と考える。

 10月下旬には縁日風の「土曜夜市」を平下さんらが初めて開催、宿泊客や住民らが輪投げや型抜きを楽しんだ。今秋は月1回の日曜日に地域内外の店が、朝食の豚汁やサンドイッチなどを提供する「ふくふく朝市」も始めている。

 若い移住者も仲間入りした。地元企業で働く長友 大晟たいせい さん(24)と、藤田愛さん(23)は月1回、住民手作りの 味噌みそ や野菜などを宿泊客らに販売する市を催している。ともに神奈川県出身で、大学時代に地域おこし協力隊インターンとして街の再生に関わったのが縁で移住を決めた。

 「地域の高齢化が進んでいるので、皆が大切にしてきたものを受け継いでいきたい」と長友さん。伝統の石見神楽など地域の情報を発信するかたわら、将来は地元の味噌造りを継承し、法人化を目指すという。

 街を挙げての再生の工夫はこの先も続く。

(松江支局 佐藤祐理)

 日本海に面した島根県西部に位置し、人口は約2万1300人(9月末現在)。県内8市で最も少ない。市内を流れる 江の川ごうのかわ は、中国地方最大の河川で「中国太郎」と呼ばれる。石州瓦の産地でもあり、赤褐色の街並みが随所に見られる。

 公共交通機関の移動で最も時間がかかる「東京から一番遠いまち」と、高校地理の教科書に掲載されたことも。市はホームページでこの件を紹介。むしろ弱点を売りにして首都圏向けの観光PRに力を入れる。

宿の負担軽減 メリット

 有福温泉で採用した「泊食分離」のスタイルは、とりわけ宿泊施設側の負担軽減のメリットが大きい。経営者らの高齢化なども背景に各地で広がっている。

 北海道上士幌町のぬかびら源泉郷では、連泊客らを対象に、宿の食事と地域の飲食店を自由に選択できる仕組みも取り入れた。リピーターも増えたという。

 長野県の下諏訪温泉でもゲストハウスと近くの飲食店が連携。群馬県中之条町の 四万しま 温泉では、昼間営業だった地域の飲食店が、宿泊者の夕食のため、週末の夜間営業を始めている。

 観光庁も温泉街の地域連携を推奨し、各地の事例を紹介している。

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