日本版ライドシェア半年 事業広がらず 厳しい制限 「認可台数に達しない」

新興企業「newmo(ニューモ)」の大阪市などでのライドシェアサービス開始に合わせ開かれた出発式で、サインを車内に掲げるドライバー=7月12日、大阪府吹田市(鳥越瑞絵撮影)
新興企業「newmo(ニューモ)」の大阪市などでのライドシェアサービス開始に合わせ開かれた出発式で、サインを車内に掲げるドライバー=7月12日、大阪府吹田市(鳥越瑞絵撮影)

個人が自家用車を使って有償で人を運ぶ「日本版ライドシェア」が始まり、8日で半年を迎える。ただ、サービスを提供できる地域は増えている一方、運行できる時間帯などの制限が厳しく、運行を手掛けるタクシー会社は事業拡大に積極的でないのが実情だ。訪日客(インバウンド)による需要増も予想される中、どこまでライドシェアを普及させる必要があるのか丁寧な議論が求められる。

「小規模のタクシー会社を中心に、ライドシェアの運転手の雇用がうまく進まず、認可された運行台数にも達しない状況が続いている」。複数のタクシー会社と提携する配車アプリ大手関係者は、ライドシェアの現状をそう打ち明ける。

日本版ライドシェアは東京、京都などを皮切りに4月に始まり、10月1日時点で大阪や北海道など全国31地域で事業が行われている。配車アプリ会社もライドシェアの車両を呼べるサービスを始め、タクシー会社と提携して決められた時間帯や地域でサービスを提供している。

ただ、配車アプリ会社の関係者は「運行時間の制限が厳しすぎる」とこぼす。大阪市とその周辺地域では、ライドシェア車両の運行は金曜の午後4~8時、土曜の午前0~4時、午後4~8時と、週のうち2日間の一部の時間帯に限られる。

タクシー会社に雇用されたライドシェアの運転手も、限られた時間帯の運行では、ライドシェアだけでの安定収入は難しく、うまみがない。

さらに、運行できる台数も制限されている。大阪エリアは午前0~4時の場合420台。行政は各社の希望を踏まえ、420台の中から運行可能台数を割り振るが、運転手の雇用が進まずその枠も使い切れていない。

サービスの提供地域も都道府県の中で限られ、大阪市のライドシェア車両の運転手に内定した男性は「訪日客の需要が高い関西国際空港でお客さんを拾うこともできない」と話す。

制限が厳しく大きな収益を期待できないことから、タクシー会社は、何が何でもライドシェアを進める必要はないという立場だ。都内の大手関係者は「通常のタクシーでもライドシェアでも、需要に対応できればいい。ライドシェアを増やすための目標などは作ってない」と割り切る。

ただ、ライドシェアには訪日客の需要が高い。配車アプリ大手「ウーバージャパン」(東京)では、都内で同社のライドシェアを利用する客の8割超が外国人。訪日客にとり、海外でも利用できるウーバーのアプリを日本でも使えれば、日本語が話せなくても旅行が容易になる。

需要が急増したときには「車両が供給不足で足りない局面も出ている」(担当者)。運転手や対象車両が十分増えない状況が続けば、今後も需要増にこたえられない。

事業者らは試行錯誤を始めており、ウーバージャパンは9月、カーシェアリング用の車両を利用し、自家用車を持たない人でもライドシェアを行える実証実験を始めた。ライドシェアの裾野を広げる環境整備の一環だが、運転手の確保につながるか未知数だ。(黒川信雄)

地域で時間や台数制限の議論を 流通経済大・板谷和也教授

現状の日本版ライドシェアは、タクシーよりも優れているところがあまりないのが問題だ。利用者にとって料金面のメリットがないのなら二種免許を持ち、経験のあるタクシーを選ぼうとするのは当然だ。

また、タクシーは利用の傾向に地域性が強い。例えば季節や時間帯によってニーズが地域ごとに大きく異なる。国が一律でルールを作るのではなく、各地域で時間や台数の制限を議論して決めた方がいいだろう。

現行制度はタクシー事業者側にとっても問題がある。運転者の適格性の確認は、雇用する各社に任されている。大手は対応できても小規模な事業者には余力がなく、雇用が進まない要因となっているのではないか。

ライドシェアを普及させるには次の制度改正で、曜日や時間、台数などの規制緩和が必要だ。

海外では地域ごとに制度を変えたり、人工知能(AI)が時間帯によって料金を自動で変動させたりと、柔軟な活用をしている。日本も参考にしてはどうだろう。

(聞き手 桑島浩任)

大阪、万博に向け規制緩和求める 協議停滞してきたが…

大阪府は来年4月に開幕する2025年大阪・関西万博で高まる交通需要を見込み、運行の時間帯やエリアが限定的な「日本版ライドシェア」の規制緩和を国に求めているものの、首相(自民党総裁)交代をめぐる政局などの影響もあり、協議は停滞してきた。

「自民党総裁選の影響もあり、国との協議は当初のスケジュールよりもずれこんでいる」

ライドシェアの規制緩和を目指す府の関係者は、国土交通省との事務レベルでの協議の現状についてこう明かす。

吉村洋文府知事は昨年10月、万博時の交通需要に応えるライドシェアの必要性を提唱。開幕半年前の今秋から来年10月の閉幕まで運行事業者が府内全域で曜日や時間帯、台数を制限されずに運行できるよう国に規制緩和を求めている。

府と国交省などは8月9日、規制緩和に向けた勉強会を開催。当初は9月中旬ごろまでに、一定の方針を示す予定となっていたが、現時点では結論が出ていない。

だが、自民党の新総裁に選ばれた石破茂首相の人事では、党副総裁にライドシェアの規制緩和に前向きな菅義偉元首相が就任。地域政党「大阪維新の会」を創設した松井一郎・前大阪市長とも親交があるだけに、ライドシェアを推進する維新幹部は「菅氏の起用は大阪にとって朗報だ」と歓迎する。

今月13日で万博開幕まで半年となるが、吉村氏は7日、記者団の取材に「大阪でも日本版ライドシェアが始まっており、運行主体のタクシー会社にノウハウが蓄積されている。(規制緩和が)想定した時期からずれても対応できる」と述べた。(山本考志)

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