KUMANO、世界遺産登録20年…参詣道歩き「巡礼」の8割は海外客
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今年で世界遺産登録20年を迎えた「紀伊山地の霊場と参詣道」(和歌山、奈良、三重県)の熊野古道が、欧米や豪州からの観光客に人気だ。和歌山県田辺市の観光団体が昨年度実施したツアーの宿泊客約6万人の8割は海外客で、米英豪でその半分以上を占めている。自然の中を歩いて聖地に向かう「巡礼」スタイルと、丁寧な言語対応が高く評価されているという。(和歌山支局 平野真由)
バス停に列

熊野古道の主要ルート「

豪州のアニメ制作会社経営、アンソニー・アーロン・カバレッリさん(29)もその一人。今年6月下旬、約1週間かけて熊野三山を巡った。「自然が豊かで、いにしえの人々と同じ道を歩いていると実感できるのが素晴らしい」と笑顔で汗をぬぐっていた。
熊野古道(
近代以降は熊野詣の風習が廃れ、歩く人の姿が絶えた時期もあったが、1990年代に古道歩きがブームになって注目された。2004年7月に世界遺産登録されると、より多くの観光客が訪れるようになった。
多言語対応
外国人観光客から支持される基盤を作ったのが、06年に田辺市や地元観光協会が設立した観光団体「田辺市熊野ツーリズムビューロー(TB)」だ。古道歩きのガイドツアーや宿の手配を行い、多言語対応の予約サイトで少人数OKのツアーも開催。案内表示などでも、日本独自の文化や歴史が伝わるよう英訳を工夫し、宿泊施設向けのおもてなし研修も重ねてきた。
その結果、欧米の旅行ガイドに掲載されるなど海外での知名度が上がり、TB旅行事業の23年度売上高は、過去最高の約8億7600万円を達成。延べ宿泊客数5万9476人のうち78%が外国人客だった。人数もこの10年間で6倍に増えた。
世界に2例の「道」登録、スペインと連携
人気の背景には、スペインの世界遺産で、ローマ、エルサレムと並ぶキリスト教の3大巡礼地「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」との連携もある。熊野古道と並び、世界で2例だけの「道」の世界遺産で、15年から<共通巡礼>を実施。歩いた距離などに応じて巡礼「達成」が認められる仕組みで、両方とも「達成」した人は世界で6000人を超えた。

6月に熊野古道を訪れた豪州のバーテンダー、アンジェリカ・トレーウィンさん(23)は「スペインにも行きたいが、まずは距離が短い熊野に挑戦した。熊野詣の精神性は複雑だが、説明の看板が多く、理解を助けてくれる」と話した。
TBの多田
TBでは今後、現在は計測していない「実際に古道を歩いている人数」を調査。場所ごとのデータを把握し、オーバーツーリズムの抑制など今後の観光戦略に役立てる方針だ。
精神的豊かさ、欧米人に人気
東洋大の古屋秀樹教授(観光行動分析)の話「巡礼の特性は、体験の重みと、その行動に時間と手間を惜しまない点にある。熊野は、精神的な豊かさを求める欧米や豪州の観光客にとって魅力的で、顧客の取り込みに成功したTBの功績も大きい」