千葉・房総半島の神社を観光資源に 地域活性で勝浦市観光協会が検討

千葉県勝浦市の砂浜
千葉県勝浦市の砂浜

新型コロナウイルスの5類移行で国内の観光需要が急回復する中、千葉県の勝浦市観光協会が、周辺自治体などと連携し、観光資源に房総半島に点在する歴史深い神社の活用を検討している。少子高齢化で祭事の担い手が先細ってきた神社側も歓迎。神社を軸とした観光の新たな形を模索する動きが始まった。

「房総半島ほど歴史が詰まった地域はめずらしい。これからは神社を観光に使うイメージがすごく大事になる。サウナで有名になった『ととのう』は、神社でもキーワードになる。けがれは『気が枯れる』という意味で、神社でけがれをはらうというのは、いつもの元気な状態を取り戻すという意味だ」

昨年12月、房総半島を開拓した天富命(あめのとみのみこと)などとゆかりのある館山市から勝浦市までの神社を巡ったモニターツアー。案内役となった佐々木優太さんが軽妙なトークで各自治体の観光担当者や旅行事業者らの興味をかきたてた。

佐々木さんは全国1万を超える神社を参拝。「神社ソムリエ」を名乗り、数々のテレビ番組やユーチューブチャンネルで各地の神社の魅力を発信している。

「房総のルーツをたどる開運の旅」と銘打たれたこのツアーは、勝浦市観光協会が企画。観光消費額の拡大などに資する取り組みの一部を補助する県の「観光コンテンツ高付加価値化促進事業」を活用した。

市観光協会の担当者は「今の観光は歴史や文化、地域の人との関わりにスポットを当てることが重要で、生かすためには地域と地域を線で結ぶ観光コースが必要になる」と話す。

伝承では、阿波国(徳島県)を開拓した天富命がさらなる豊かな土地を求め、阿波忌部氏(いんべうじ)を率いて流れ着いたのが房総半島とされる。麻を植えたところよく育ったので、麻を意味する「総」の字がつけられ、上総、下総の国名が生まれたとされる。

上陸の折には天太玉命(さまのふとだまのみこと)をまつる社を創建した。現在の館山市の安房神社で、阿波国の名が由来とされる。房総半島にはこうした歴史深い神社が多く、観光資源に活用したいという。

神社を人集めに使うことには否定的な考えもあるが、参拝客の増加は、地域の発展に直結する。脈々と続いてきた地域の伝統を守ることにもつながる。

神社に物品を奉納する事業者は潤い、地域の宿泊施設や飲食店の集客も増え、経済活性化に寄与するとみられる。

2~3月の「かつうらビッグひな祭り」で、遠見岬神社の石段に飾られたひな人形
2~3月の「かつうらビッグひな祭り」で、遠見岬神社の石段に飾られたひな人形

神社の観光面での活用には課題もある。

寺は仏像ごとの表情の違いに着目するなど、観光客が独自で楽しみを見出だせる余地がある。しかし、神社は参拝客が個人で楽しみを見つけづらい側面があるという。飽きさせないためには、宮司らの協力が欠かせない。

手をあげたのが天富命をまつり、富と勝ち運の御利益があるとされる勝浦市の遠見岬(とみさき)神社、小林悠紀宮司。モニターツアーでは各神社の魅力を丁寧に解説し、参加者らを楽しませた。

新たな取り組みとして、小林宮司が天冨命や忌部氏(いんべうじ)にまつわる話をしながら、ライトアップした遠見岬神社の境内を案内する「トワイライトツアー」も定期的に開催している。じわりと人気が広がっている。夜間観光に対応し、外房エリアの滞在時間の延長にも一役買いそうだ。

小林宮司は「日本の歴史や文化に興味を持ってくれる若い世代やインバウンド(訪日外国人客)は増えているが、神社は豊かな物語があるのに、PRがうまくない。神社も少子高齢化で5年後、10年後はどうなるかわからない。地域の伝統を守るため神社こそ地域のために動かなくてはならない」と、観光資源としての協力を惜しまない。

(松崎翼)

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