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北海道ニセコが直面する「成長痛」、外資けん引のリゾート開発に陰り

  • 開発計画の中止や見直しが発生、人件費や資材価格高騰など背景に
  • 一部投資家はニセコへの投資避ける動きも、将来的な値上がり不透明

雪質の良さが海外の愛好家や富裕層を魅了し、今やアジアを代表するスキーリゾートに成長した北海道ニセコ。長年にわたり海外から何億ドルもの投資を呼び込み、またがる二つの小さな町でコンドミニアムやホテル建設が加速したが、ここへきてその成長スピードに陰りが見え始めた。

  ニセコのさらなる成長にストップをかけ始めた要因の一つがあらゆるコスト高だ。海外からの投機マネーの流入もあり、ニセコ地区の地価を大きく押し上げた。資材高や人件費上昇も宿泊施設の建設をはじめ、観光業自体の重しにもなっている。

  ニセコで何年も不動産開発に携わるデベロッパーによると、現地でのプロジェクトにかかるコストは過去2年で3割超上昇し、過去10年の期間では3倍に拡大した。銀行がプロジェクト推進のための融資を厳格化しているほか、大規模開発を巡る新たな規制も新規投資を難しくさせている。

開発プロジェクトの中止

  ニセコの不動産開発会社、ニセコ・アルパイン・デベロップメンツ(倶知安町)の創業者であるジョナサン・マーティン氏は「今すぐプロジェクトを立ち上げるのは、思い切った開発業者だけだろう」と話す。

  同氏によれば、過去2年間で顧客の3社が予想以上のコスト高を理由に開発プロジェクトの中止を決めた。別の2社も中止を決断する寸前だという。以前はプロジェクト費用の10%に過ぎなかった土地代が、今では25%以上を占めるようになった。また、建設業者によれば、建設費用も過去2年間で約20%から30%上昇したという。

Ski Resorts in Niseko
ニセコでのホテル建設の様子(2023年12月)
Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

  世界的スキーリゾートであるカナダのウィスラーや米国アスペンに匹敵する成長余力を持つと見てニセコの開発を担ってきたのは、香港のパシフィック・センチュリー・プレミアム・デベロップメンツやシンガポールのSCグローバル・デベロップメンツなど著名な海外資本だ。近年は「パークハイアット」や「リッツカールトン」ブランドのホテルがオープンし、「アマン」や「カペラ」などの高級ホテル運営会社もプロジェクトを発表している。

  一方、計画を見直す企業も出てきた。高級ホテルを運営するシンガポールのバンヤンツリー・ホールディングスは、2025年にニセコでの施設オープンを発表していたが、開発に関する新たな規制導入を踏まえプロジェクトを再検討しているという。同社は現在、長野県の人気スキーリゾートである白馬村でのプロジェクトを計画中だ。

労働者の奪い合いも

  コスト高を招いた最大の要因の一つは深刻な労働力不足。辺境地でもあるニセコでは、建設労働者を確保するのは困難だ。また、北海道新幹線の札幌までの延伸事業や次世代半導体の量産を目指すラピダスによる千歳市での新工場建設といった国家的プロジェクトが道内で進んでおり、労働者確保は争奪戦の様相を呈す。

  北海道に本社を置く建設業者、中山組・建築事業部の宮川耕介部長は「人件費がかなり高騰しており、お金を払ってもなかなか人を集められない状態になりつつある」と語る。過去1年間で労働者不足を理由にニセコのプロジェクトの見積もり依頼を少なくとも5件断らなければならなかった。

  ニセコの成長に陰りを招いているもう一つの理由が、日本の金融機関から融資を受けることが難しい点だ。「ニセコは20年前からリゾート地として発展してきたにもかかわらず、国内の銀行はほぼノータッチだった」とニセコに関する著書を持つ元銀行アナリストでマリブジャパン代表取締役の高橋克英氏は指摘する。住宅ローンや不動産担保ローンを審査するような分析手法ではなく、ニセコの成長性を評価するような手法が求められるという。

  ブルームバーグが閲覧した資料によると、ニセコのあるプロジェクトでは昨年、建設資金を調達するために10%の金利で126億円のプライベートローンが投資家に販売された。デベロッパーや銀行関係者によれば、日本の開発プロジェクトに融資する一般的な金利は1.5%から2.5%程度だという。

  ニセコリゾートとして広く知られる地域の半分を管轄する倶知安町は、数年にわたる急速な開発の後、新しいホテルの床面積と高さを制限する規制を設けた。昨年10月に施行されたこの規制は、開発を縮小し、上下水道のインフラが限界まで拡張された町の環境を保護することを目的としている。

Investors Rethink Projects in Japan's Niseko Ski Area

Higher costs and stricter local planning laws are among the new hurdles

Source: Bloomberg

  倶知安町まちづくり新幹線課景観室景観係の星加明仁係長は、この条例は、リゾートエリアをさらに拡大するのではなく、既存エリアの再開発を重視するものだと述べた。

  既に完成した物件を持つ投資家にとっては希少性から資産価値の上昇が続く可能性があり、ニセコを有望な投資先とみる向きは依然として多い。外国為替相場の円安進行もあり、欧州や北米のリゾート物件と比べてもなお割安だ。しかし、最近のコスト高は最終的なプロジェクト費用の上昇にもつながるため、期待リターンとの見合いで一部の投資家を遠ざけている。

  台湾在住の実業家アルバート・チェン氏は、家族でニセコに約4億円の予算でコンドミニアムの購入を検討した。ニセコのコンドミニアムのほとんどは、タイムシェアのようなシステムで販売されており、所有者はホテルとして運営する管理会社に年間費用を支払い、年に数週間だけ物件を利用する。

  チェン氏が興味を持っていたベッドルーム3部屋のコンドミニアムの価格は3億3500万円で、最初の4年間は4-5%のリターンが見込めた。しかし、将来的に不動産価格が値上がりするかどうかは不透明だとし、購入を見送った。チェン氏はよりリスクの低い投資先の方が魅力的で、「現金を米国債に投資するのと同じくらいの利回りを得られる。その利回りで好きなリゾートに泊まりに行くことができる」と語った。

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