世界の高級ホテル、１泊15万円は「新常態」か－インフレが最大の要因

超富裕層の旅行者の間でさえホテル１泊に1000ドル（約14万8000円）を費やすのはぜいたくだと考えられていたのは、それほど昔ではない。しかし、最近はこの金額では主要市場の高級ホテルに辛うじて泊まれるかどうかだ。

　　旧英陸軍省（ＯＷＯ）ビルを改装し昨年開業した「ラッフルズ・ロンドン」、ドバイの「アトランティス・ザ・ロイヤル」、「ブルガリ・ホテル・ローマ」の宿泊料金はいずれも1000ドル以上。ラッフルズの客室は、キングサイズのベッドを置くのに十分な31平方メートルの広さがある。

　　今春の宿泊予約についてオンライン検索したところ、パリでエントリーレベルの客室に少なくとも1000ドルかかるホテルは20余り。ロンドンは13、ニューヨークでは12だった。ホテル市場調査会社コスター・グループのデータによれば、高級ホテルの宿泊料金は2019年から22年末までに欧州で35％、北米で28％上昇した。

　　こうした現象は新しいホテルで最も顕著だが、多くの老舗ホテルにも当てはまる。オープンから１年半の「アマンニューヨーク」の最低宿泊料金は現時点で1530ドル、93年の歴史を持つ近隣の「カーライル」は1000ドル前後だ。

　　ユーロモニター・インターナショナルの高級品部門責任者、フルール・ロバーツ氏は、近隣のホテルは必ず先例に倣うと指摘。23年にロンドンにオープンしたラッフルズは１泊1000ポンド（約18万8000円）を上回る宿泊料で「ザ・ペニンシュラ」に追随。近隣に今年オープンする全室スイートの「エモリー」は2000ポンド強が見込まれている。

　　もう一つの要因は、高級ホテルブームだ。この数年間に建設・改装されたホテルの多くは、その高いコストを利用客に転嫁している。

　　しかし、最大の要因はもちろんインフレだ。人件費、光熱費、保険料などあらゆるコストが上昇している。

　　ロバーツ氏は「インフレが大きな影響を及ぼしている」とした上で、「シャネルのバッグが値上がりしても、人々が購入をやめることはない。むしろもっと欲しくなるものだ」と語った。

　　コスターのデータは、高級ホテルの利用者が増えていることを裏付けている。宿泊料の上昇にもかかわらず、客室稼働率は実際に伸びており、米国では23年に67.3％と、22年の64.5％を上回った。ただ、依然として新型コロナウイルス禍前の19年の水準には届いていない。

　　米国や英国などの国々でインフレ率は鈍化しつつある。米国では23年に年率3.4％と、22年の6.5％、21年の７％を下回った。ただ、ホテル業界のこうした「ニューノーマル（新常態）」は今後も続くと多くが予想している。

　　宿泊予約サイト運営会社、米ホテルプランナーのティム・ヘンシェル最高経営責任者（ＣＥＯ）は「特に新参の富裕層の間で、高級ホテル需要は今後も増加し続ける」と予測。さらに、「1000ドル超の料金がもっと当たり前になるだろう」との見方を示した。

　　24年には、ロンドンに「マンダリン・オリエンタル・メイフェア」、ニューヨークにコリンシア・ホテル系列の「ザ・サリー」、イタリア・フィレンツェに「コレジオ・アッラ・クエルチェ」がオープンする。宿泊料はいずれも1000ドル以上だ。

　　宿泊料のさらなる上昇もあり得る。モルディブで２月半ばに開業予定の「ソネバシークレット」は１泊3140ドルから。そうなれば料金の記録が塗り替えられることになる。

（原文は「ブルームバーグ・ビジネスウイーク」誌に掲載）

原題：How $1,000-a-Night Hotel Rooms Became a New Normal in Travel（抜粋）