シェアハウス市場拡大、進化系も 「ホテルより割安」訪日客の受け皿に

グローバルエージェンツの物件の共用ラウンジ=大阪府吹田市(同社提供)
グローバルエージェンツの物件の共用ラウンジ=大阪府吹田市(同社提供)

一つの賃貸住宅に複数人が共同で暮らす「シェアハウス」の市場が拡大している。新型コロナウイルス禍が実質的に収束し、他人と接触することへの抵抗感が薄れ、主要顧客の外国人利用が戻ってきているためだ。定住にとどまらず、価格高騰が進むホテルより割安な長期滞在向けの宿として使う訪日外国人客が急増。プライベート空間を充実させた「進化系」も需要を広げている。

「コロナ禍が明けた反響が大きい」と喜ぶのは兵庫県西宮市でシェアハウスを運営する不動産業のウィル(同県宝塚市)。外国人留学生の入居が相次ぎ、6割に落ち込んでいた稼働率が11月には8割程度に戻った。

全国のシェアハウスも主要顧客の外国人が稼働を押し上げる。日本で賃貸住宅を契約するのが難しい外国人の受け皿になっていることに加え、「ホテルより割安」と旅行者の利用も多い。コロナ禍の打撃は大きかったが、足元の稼働率は「9割台」とする事業者が多く、コロナ禍前の水準に回復。在宅生活を強いられたコロナ禍が明け「人肌恋しいと感じる意識も入居動機になっている」(業界大手)という。

共用部の会議室はテレワーク需要も取り込んでいるシェア180の物件=金沢市(同社提供)
共用部の会議室はテレワーク需要も取り込んでいるシェア180の物件=金沢市(同社提供)

一方、コロナ禍で生まれた新たな生活様式に合わせ、シェアハウスも変化。一般的に水回り設備は共用だが、居室内にキッチンや風呂などを完備した進化系が続々登場。共用部には大型キッチンやラウンジ、シアタールームなどがあり、シェアハウスの良さも充実しているのが特徴だ。

進化系を展開するグローバルエージェンツ(東京)の広報担当者は「時にはゆっくり一人の時間を持ちたいニーズはある」とし、玄関から共用部を通らず居室に入れる動線なども採用。共用部の清掃は運営会社が担うなど、共同生活で生じがちな不満やトラブルの未然防止にも力を入れる。

オークハウス運営の「アパルトマン朝霞」に設けられたシアタールーム=埼玉県朝霞市(同社提供)
オークハウス運営の「アパルトマン朝霞」に設けられたシアタールーム=埼玉県朝霞市(同社提供)

日本シェアハウス連盟の調査によると、全国のシェアハウス物件数が前年を下回った令和3年以降は回復が進み、5年は前年比3・6%増の5808軒と2年連続で前年を上回った。国や自治体も空き家対策として改修費用の一部を補助するなど活用を後押しする。廃止された旧社宅などは間取りや構造を大きく変える必要がなく、業界が注目しているという。

実際、大手の出店意欲は旺盛で、業界最大手のオークハウス(東京)は現在の国内約4600室から今後10年間で海外展開も含め5万室規模に増やす計画を掲げる。シェア180(名古屋市)は中部地区を中心に現在約1千室を運営するが、全国への展開で3年後には倍増を狙う。社員が一定期間住み込み、住人の気質や価値観に合う物件への転居も勧めるなどユニークな運営手法を取っており、伊藤正樹社長は「外国人採用を強化するにあたり、社宅として検討する法人からの問い合わせが増えている」と話している。(田村慶子)

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