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 高級ホテルが少ない東京・渋谷に変化の兆しが見えている。2024年以降、渋谷を地盤とする東急グループと新たに進出するライバル企業のホテル対決が渋谷駅周辺で本格化する。

 再開発が目白押しの渋谷では、大型複合施設の目玉として高級ホテルを誘致する動きが活発である。東京を訪れるインバウンド(訪日外国人)が行きたい場所として名前が挙がる渋谷は遊ぶだけでなく、「泊まる街」に生まれ変わりそうだ。

 一足早く、23年8月に先陣を切ったのが、道玄坂2丁目にオープンした英IHGホテルズ&リゾーツが展開する「ホテルインディゴ東京渋谷」である。ディスカウント店のドン・キホーテを傘下に持つパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が中心となって開発した複合施設「道玄坂通 dogenzaka-dori」の上層階に入居した。ホテルインディゴブランドとしては日本で4件目であり、東京は初となる。

道玄坂2丁目にオープンした「ホテルインディゴ東京渋谷」(写真:日経クロステック)
道玄坂2丁目にオープンした「ホテルインディゴ東京渋谷」(写真:日経クロステック)
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 客室数は272室と、部屋数は多め。ただし、スタンダードルームは17m2とビジネスホテル並みの広さで、渋谷の一等地で客室数の多さを優先したといえそうだ。宿泊料金は24年1月中旬時点で5万円台から。渋谷の繁華街に位置するとはいえ、部屋の広さに対して5万円以上の料金設定は強気である。

 最大の特徴は、世界的に知られる渋谷スクランブル交差点のそばという、観光には打ってつけの立地だ。渋谷のシンボルであるファッションビル「SHIBUYA 109」の裏手に位置する。

 スクランブル交差点から西方向に進むと、坂道がSHIBUYA 109の手前で左右に分かれる。左が道玄坂、右が文化村通りで、どちらも渋谷を代表するメインストリートだ。文化村通りを挟んでホテルの向かい側には、インバウンドにも人気の「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」がある。

一部の客室から、渋谷駅近くの高層ビルが目の前に見える。一番高いビルが渋谷駅上に立つ「渋谷スクランブルスクエア」。客室は足元近くまでガラス窓になっており、渋谷の街を間近に感じられる(写真:日経クロステック)
一部の客室から、渋谷駅近くの高層ビルが目の前に見える。一番高いビルが渋谷駅上に立つ「渋谷スクランブルスクエア」。客室は足元近くまでガラス窓になっており、渋谷の街を間近に感じられる(写真:日経クロステック)
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窓から眼下をのぞき込むと、文化村通りの先にスクランブル交差点が見える(写真:日経クロステック)
窓から眼下をのぞき込むと、文化村通りの先にスクランブル交差点が見える(写真:日経クロステック)
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 道玄坂と文化村通りの間を南北につなぐように、道玄坂通ができた。施設名が道玄坂通となっているのは、建物が道玄坂と文化村通りを結ぶ通路としても機能しているからだ。

 もっとも、道玄坂通と言われると、施設名なのか道路名なのか判別がつかない。どちらでもあるわけだが、迷う人はいるだろう。おまけに敷地形状が非常に複雑で、かつ高低差がある。周囲は細い坂道だらけで、そこに昔ながらの雑居ビルが立ち並んでいる。飲食店や飲み屋がひしめき合い、風俗店やラブホテルも点在する雑多な場所でもある。

「道玄坂通」の敷地は非常に複雑だ。通り抜けできるように出入り口を複数設けた(出所:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)
「道玄坂通」の敷地は非常に複雑だ。通り抜けできるように出入り口を複数設けた(出所:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)
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 ホテルインディゴは、出店する街の個性やカルチャーに合わせて内装デザインを個々に決める。ホテルインディゴ東京渋谷は国内にある他のホテルインディゴとは雰囲気が全く異なる。渋谷らしく、ファッションや音楽、ストリートアートなどから連想されるポップなデザインをふんだんに取り入れた。斜線模様も多く使われているが、これはスクランブル交差点をイメージしたものだという。

 道玄坂通は地下1階・地上28階建て(建築基準法上は地下2階・地上27階建て)で、高さは約115m。構造は鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造だ。設計は東急設計コンサルタント、施工は熊谷組が手掛けた。

 敷地面積は約5900m2、延べ面積は約4万1800m2。施設にはホテルインディゴ東京渋谷の他、店舗や飲食店、事務所が入っている。ホテルは地上3階および11~28階と、施設の半分以上を占める。1階には複数のカフェが入居しており、ドン・キホーテの新業態である雑貨店「ドミセ渋谷道玄坂通ドードー店」を初出店している。流通業主体のPPIHが手掛ける不動産事業とドンキの融合に注目したい。

 ホテルインディゴ東京渋谷は23年夏開業という先行メリットを生かし、渋谷で早めにファンを獲得したいところ。というのも、27年には強力な競合ホテルが2件、すぐ近くで開業する予定だからだ。

 テイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)系のブティックホテル「TRUNK(HOTEL)DOGENZAKA(仮称)」と、東急と仏L Catterton Real Estate、東急百貨店の3社が共同開発する「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」に入居する外資系の高級ホテル「The House Collective(ザ・ハウス・コレクティブ)」である。

 三菱地所が初めて渋谷の再開発に参画する「道玄坂2丁目南地区第1種市街地再開発事業」が、道玄坂通の近くで進行中だ。この施設はオフィス棟とホテル棟から成る。デザイン総合監修を北川原温建築都市研究所(東京・渋谷)が担当する。地下2階・地上11階建てのホテル棟にTRUNK(HOTEL)DOGENZAKAが入居し、27年3月ごろにオープンする。道玄坂に面し、渋谷駅に直結する好立地だ。

道玄坂2丁目南地区第1種市街地再開発事業は、オフィス棟とホテル棟で構成(出所:三菱地所、テイクアンドギヴ・ニーズ)
道玄坂2丁目南地区第1種市街地再開発事業は、オフィス棟とホテル棟で構成(出所:三菱地所、テイクアンドギヴ・ニーズ)
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 TRUNK(HOTEL)DOGENZAKAの延べ面積は、約1万3000m2。客室数は120~130室になる見込みで、ホテルインディゴの半分ほど。広さは28m2以上とし、客室単価は5万円以上を想定している。ホテルインディゴの実績次第では、もっと高い料金設定になるかもしれない。渋谷では最大級のルーフトッププールを備えるのが特徴だ。

「TRUNK(HOTEL)DOGENZAKA(仮称)」のルーフトッププールのイメージ。渋谷では最大級の屋外プールになる(出所:三菱地所、テイクアンドギヴ・ニーズ)
「TRUNK(HOTEL)DOGENZAKA(仮称)」のルーフトッププールのイメージ。渋谷では最大級の屋外プールになる(出所:三菱地所、テイクアンドギヴ・ニーズ)
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 T&GグループのTRUNK(トランク、東京・渋谷)が渋谷区神宮前で運営する「TRUNK(HOTEL)CAT STREET(トランクホテル キャットストリート)」の開発で、T&Gは婚礼事業に続きホテル事業を軌道に乗せた。

 23年9月には同じ渋谷区の富ヶ谷に「TRUNK(HOTEL)YOYOGI PARK」もオープンし、勢いに乗る。YOYOGI PARKの設計は芦沢啓治建築設計事務所(東京・文京)、インテリアデザインは同じく芦沢事務所とデンマークのNorm Architects(ノームアーキテクツ)が手掛けた。渋谷区に集中出店し、ドミナント化を狙う。

 一方、The House Collectiveは香港を拠点とする「Swire Hotels(スワイヤー・ホテルズ)」の高級ブランドで、日本初進出となる。入居するShibuya Upper West Projectは東急百貨店本店の跡地にできる、地下4階・地上36階建ての複合施設だ。デザインアーキテクトに、ノルウェーの建築設計事務所「Snøhetta(スノヘッタ)」を起用することで大きな話題になっている。

東急百貨店本店の跡地に27年度に完成する予定の複合施設「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」(出所:東急、Image by Mir/Snøhetta)
東急百貨店本店の跡地に27年度に完成する予定の複合施設「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」(出所:東急、Image by Mir/Snøhetta)
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 営業を終了した東急百貨店本店は現在囲いに覆われ、建物の解体が進んでいる。渋谷の景色がどんどん変わっていく。

東急百貨店本店の解体は23年12月時点で大詰めを迎えた。ホテルインディゴ東京渋谷の客室から解体現場が見える(写真:日経クロステック)
東急百貨店本店の解体は23年12月時点で大詰めを迎えた。ホテルインディゴ東京渋谷の客室から解体現場が見える(写真:日経クロステック)
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