美瑛、富士山… オーバーツーリズムに悩む自治体 満足度低下を懸念

富士山5合目から山頂を目指す登山者たち。脇には「弾丸登山」をしないように呼びかける看板も=9月2日、山梨県富士吉田市(平尾孝撮影)
富士山5合目から山頂を目指す登山者たち。脇には「弾丸登山」をしないように呼びかける看板も=9月2日、山梨県富士吉田市(平尾孝撮影)

訪日外国人客数の回復や新型コロナウイルス感染症の5類移行で観光需要が急速に戻る中、一部の地域では過度の混雑やマナー違反といった「オーバーツーリズム(観光公害)」への懸念が改めて強まっている。観光客の満足度低下を招きかねず、政府も10月に緊急対策を公表した。「丘のまち」として人気の北海道美瑛町や、多くの登山者が訪れる富士山を擁する山梨県も対策に追われている。

◆北海道・美瑛

丘陵地帯に広がる田園風景が魅力の美瑛町。水面が青く見える「白金青い池」や、昭和40年代後半のCMに登場した「ケンとメリーの木」など、有名な観光スポットがいくつもある。人口9400人余りのこの町に、コロナ禍前のピーク時には年間約242万人(令和元年度)が押し寄せた。

一方、混雑やマナー違反で地元住民の生活は脅かされている。北海道ではマイカーやレンタカーなど車移動が多いとされ、これにバスツアーが加わると「(観光スポットの周辺で)大渋滞を起こすことがたびたびある」と町商工観光交流課の高島和浩課長は話す。

これらの車両が生活道路や農道に路上駐車し、住民の車や農機の通行が妨げられる事態が起きている。風景の写真を撮ろうとする観光客の農地への無断立ち入りも問題になっている。

すでに町は対策に乗り出している。4月には、オーバーツーリズムの抑止を目的とした「持続可能な観光目的地実現条例」を施行。景観や生活環境を阻害する行為や私有地への無断立ち入りを禁じ、そうした行為が認められるときに町長は期間を定めて立ち入り制限区域を指定できるとした。

道の駅の駐車場拡張や、デジタルツールの活用も進めている。町内の観光スポット4カ所に人工知能(AI)カメラを設置し、混雑情報を分析。データは、道の駅や観光案内所にあるデジタルサイネージ(電子看板)で発信し、観光客の混雑回避に役立ててもらう。

町を潤す観光の振興と、住民の生活の質の確保をどう両立させるか。高島課長は「町の基幹産業は農業と観光。地域の産業がバランスよく成り立つよう(オーバーツーリズム対策に)取り組みたい」と強調する。

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