宇都宮「LRT」好発進 開業1カ月、想定上回る利用者 接触事故で課題も

宇都宮市街地を走行するLRT(伊沢利幸撮影、画像の一部を加工しています)
宇都宮市街地を走行するLRT(伊沢利幸撮影、画像の一部を加工しています)

高齢化、環境負荷の軽減、観光客対策…。さまざまな地域課題に対応する公共交通として次世代型路面電車(LRT)が注目されている。8月の開業から1カ月が経過した栃木県のLRTは、開業効果もあって順調な滑り出しをみせる。一方、山梨県は富士山のオーバーツーリズム(過剰観光)対策の切り札としてLRT整備を進めるが、地元の反発で実現への道のりは険しい。

「乗り心地いい」

9月13日午前6時、雷が多く「雷都」とも呼ばれる宇都宮市の停留場「駅東公園前」。始発列車を待つ通勤客らの前に、3両編成のLRT「ライトライン」が静かに滑り込んだ。9月からLRTで通勤する30代の男性会社員は「始発でも座れないこともあるが、音が静かで乗り心地もいい」と話す。

新規の路面電車として75年ぶり、全線新設では国内初のLRTが8月26日、宇都宮市と芳賀町にお目見えした。宇都宮駅東口とホンダの研究拠点などがある芳賀・高根沢工業団地(芳賀町)の14・6キロを約48分間で結ぶ。「ライト」は雷都が由来で、稲光をイメージした黄色が車両のシンボルカラーだ。

構想から開業まで30年もかかったが、運行会社「宇都宮ライトレール」の担当者は開業1カ月の利用状況について「ご祝儀的な乗車もあるが、順調な滑り出しだ」という。

同社によると、利用者数は平日が通勤・通学客を中心に1日約1万2千~1万3千人で安定して推移。休日は1日約1万5千~1万6千人と事前予想の4倍以上となった。特に週末はLRTを目当てに市外から訪れる家族連れらが多く、9月3日の日曜は最多の約2万人が利用した。

地価も上昇

もともと高齢化社会の進展を見据え、工場や観光施設など各拠点を公共交通で結び、マイカーに依存しなくても高齢者が移動しやすく、快適に暮らすことのできるネットワーク型コンパクトシティの実現が宇都宮市などの狙いだ。その役割を担うLRTの誕生で市街地は活気づく。宇都宮駅東口周辺ではマンションなど再開発が進み、周辺の地価も上昇した。

宇都宮市街地を走行するLRT(伊沢利幸撮影)
宇都宮市街地を走行するLRT(伊沢利幸撮影)

ただ、一般の車と「共存」するLRTの登場に思わぬ接触事故も。開業から1カ月でLRT車両と乗用車の接触事故は3件発生した。いずれも負傷者はいないが、乗用車のドライバーによる標識や信号の確認不足が原因とみられる。同社と県警は新たな標識の設置を含めて安全対策の強化に乗り出している。

宇都宮市の佐藤栄一市長も9月28日の記者会見でLRTの開業1カ月について「休日は想像以上の利用だった。(接触事故防止に向け)安全性確保を第一に快適に利用してもらえるようにしたい」と指摘。利用者数を増やすために、沿線開発やイベント開催を進める考えを示し、「バスなど他の公共交通にも相乗効果が表れるよう仕掛けていきたい」と強調した。

難航の富士山登山鉄道

一方、LRTが富士山麓を走る富士山登山鉄道構想を打ち出している山梨県。仕掛け人は長崎幸太郎知事だ。新型コロナウイルスの5類移行に伴い、登山道が登山客で混雑したり、外国人のマナー不足が指摘されたりした富士山のオーバーツーリズム解消などが目的だ。

県によると、富士山麓の河口湖から富士山5合目までの有料道路「富士スバルライン」に、LRTの軌道を敷設し、路面電車を走らせる構想だ。距離は25~28キロ程度だ。

LRTによる富士山登山鉄道のイメージ(山梨県提供)
LRTによる富士山登山鉄道のイメージ(山梨県提供)

冬場の大雪と景観保全に配慮し、パンタグラフから電力を取り入れるのではなく、地中に配線した電力線から非接触で給電して走行する仕組みを想定。災害対応の緊急車両も走行できるようにする。

現在の富士スバルライン上に軌道を通すため、新たな森林伐採や道路の拡幅などは最小限に抑えられる。長崎氏は「自然環境を傷つけることなく整備できる」と自信をみせる。県は6月の補正予算で富士山登山鉄道関連の事業化検討費を初めて計上し、整備計画を本格化させる構えだ。

だが、富士吉田市の堀内茂市長が「これ以上、(世界遺産の)富士山に人間の手を入れてはいけない。登山鉄道でなく、EV(電気自動車)バスでこと足りる」と構想への反対姿勢を鮮明にしており、地元の同意は得られていない。(伊沢利幸、平尾孝)

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