
環境保護のために禁止できるものはないか――やり玉にあがるのが、欧州内の短距離フライトだが、一口に短距離フライトといっても中身はいろいろだ。写真はニューヨークの空港で2022年1月撮影(2023年 ロイター/Bryan Woolston)
[ブリュッセル 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 環境保護のために禁止できるものはないか――やり玉にあがるのが、欧州内の短距離フライトだ。ドイツやスペインなどの諸国は、二酸化炭素(CO2)排出量削減という大義名分の下、航空機による短距離移動を抑制することを提案している。グリーンピースなどの団体は、各国政府は、短距離の移動については鉄道その他の地上移動手段を選ぶよう旅行者に求めるべきだと主張している。
だが、一口に短距離フライトといっても中身はいろいろだ。商用旅客機の短距離フライトを禁止するより、プライベートジェットを対象とする方が理にかなっている。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、航空輸送部門が2022年に排出したCO2は8億トン。各種の輸送手段により世界中で排出される年間80億トンのCO2のうち10%前後に相当する。同年、欧州連合(EU)における排出量は約25億トン。そのうち航空部門が占める比率は近年では4%ほどだが、大半は長距離フライトによるものだ。欧州31カ国を対象とした2022年の調査では、500キロ未満の短距離フライトは、出発便全体の28%を占めているが、消費した燃料で見れば6%を下回っている。
商用旅客機は地上移動に比べれば環境を汚染しているとはいえ、容易に真似できない長所もある。身体に障害のある乗客や、さらに遠方の目的地に向かう乗り継ぎ客が味わう理不尽な不便さを避けるという点では、鉄道サービスはまだ出遅れている。KLMのマルジャン・リンテル最高経営責任者(CEO)は、乗り継ぎ客が短距離フライトを利用できなくなれば、彼らは自動車を利用するようになるだけだと話している。
むしろ、プライベートジェットによる移動を制限する方が効果は大きく、広範囲にわたる混乱もほとんど生じない。乗客1人あたりの環境負荷は、いわゆる「空飛ぶバス」と呼ばれる商用航空機の短距離フライトよりもプライベートジェットの方がはるかに大きい。シンクタンクの政策研究所(IPS)によれば、乗客1人あたりの排出量は45倍にもなるという。グリーンピースのデータでは、2022年に欧州内でのプライベートジェット利用により排出されたCO2は、前年の水準の2倍に当たる340万トンに達し、そのほとんどが距離750キロ未満のフライトによるものだった。
短距離フライトの禁止が気候変動対策よりも産業政策の色合いを強める場合、その焦点はますますぼやけてくる。フランスでは鉄道で2時間半以下の距離の国内便はすでに禁止されているが、実際にその対象となったのは3路線のみで、削減されるCO2排出量は年間わずか5万5000トンと予想されている。デイビーで輸送アナリストを務めるスティーブン・ファーロング氏によれば、収益性の低い路線を廃止し、こうした路線での新たな競争を禁じることは、エールフランスの事業計画にとってはむしろ手助けになっているという。
いずれにせよ、短距離フライトには気候変動以外のポジティブな経済的根拠がある。ノルウェーの格安航空会社(LCC)ノルウェー・エアシャトルなど新興の航空会社が既存航空会社に挑戦し、またコロナ禍後の再建を試みる機会を与えてくれる。また乗り継ぎ便があるからこそ、ブリュッセル航空がアフリカと行き来する乗客にとってのハブとして機能することも可能になる。旅行の経由地であることに経済が依存している国にとっては生命線だ。
短距離の航空路線からの時間をかけた段階的撤退や、ベルギーのように500キロ以下のフライトに対して10ユーロの課税をするといった課徴金制度は筋が通っている。とはいえ、現時点で短距離の大量輸送路線を禁止してしまうのは、あまりにも勇み足である。
●背景となるニュース
*フランスやスペイン、ベルギー、ドイツなどの諸国は、短距離フライトを削減または禁止する法律を制定、あるいはそうした措置を検討している。EUの長期的なモビリティー計画では、環境負荷の少ない選択肢が他にある場合は航空機による移動を控えることを求めている。
*欧州委員会によれば、2017年、EUのCO2排出量全体のうち航空部門からの直接の排出量は3.8%を占めていた。輸送部門全体の排出量のうち航空部門は14%を占めている。
*グリーンピースの調査によれば、欧州におけるプライベートジェットのフライトは、2020年の11万8756回から2022年には57万2806回へと増加し、CO2排出量も同時期に約33万5000トンから340万トンへと急増した。2022年のプライベートジェットによるフライトのうち、半分以上は750キロ未満の距離だった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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