全2863文字
コトツナは観光業界向けサービスに生成AIを活用する。サウジアラビアのサムーン・インフォメーション・テクノロジーが採用するなど海外にも普及しつつある(写真:コトツナ)
コトツナは観光業界向けサービスに生成AIを活用する。サウジアラビアのサムーン・インフォメーション・テクノロジーが採用するなど海外にも普及しつつある(写真:コトツナ)
[画像のクリックで拡大表示]

 インバウンド(訪日外国人)需要の急回復に沸く観光業界で、生成AI(人工知能)の活用が進んでいる。業界で問題になっている人手不足をAIで乗り越えるためだ。宿泊業向けコミュニケーションサービスを手掛けるスタートアップのKotozna(コトツナ、東京・港)は、生成AIを使ったチャットツールの提供を開始した。簡単な案内作業にAIを使うことで、従業員の負担の軽減につなげる。

観光業界での生成AI活用には無人化や外国語能力不問といったメリットがある(出所:日経クロステック)
観光業界での生成AI活用には無人化や外国語能力不問といったメリットがある(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 2023年7月、岸田文雄首相が就任後初めてサウジアラビアを訪問した際に、約40社の日本企業の経営者や幹部が同行した。三菱重工業やNEC、富士フイルムホールディングスといった大手企業が名を連ねる中、観光業界で唯一同行した企業が2016年に創業したばかりのコトツナだった。

 コトツナはホテルや旅館などの宿泊業向けに、宿の情報発信や宿泊客とのコミュニケーションを円滑化するサービス「Kotozna In-room(コトツナインルーム)」を手掛ける。サービスの中心の1つはチャット機能で、利用者(宿泊客)はホテルなどの部屋にある2次元コード(QRコード)をスマートフォンで読み込むだけで従業員とチャットできる。アプリのインストールは不要だ。

 チャットの内容は翻訳AIによって同時通訳されるので、利用者も従業員も自言語で対応できる。100以上の言語に対応する。翻訳AIに関しては全ての言語で同じサービスを利用するのではなく、中国語なら中国・百度(バイドゥ)、韓国語であれば韓国NAVER(ネイバー)というように、言語によってサービスを使い分けている。頻出の質問にはAIが自動で回答する機能も備えている。

 2020年10月のサービス開始から約2年半で、400の宿泊施設が導入した。これまでの導入企業のほとんどは日本企業だが、海外での利用も想定して開発している。そこに目を付けたのが、サウジアラビアのテクノロジー企業であるSamoon Information Technology(サムーン・インフォメーション・テクノロジー)だ。サウジアラビアは、経済改革計画「ビジョン2030」で2030年までに国内総生産(GDP)に占める観光産業の比率を10%に引き上げることを目標にしている。サムーンは、拡大を目指すサウジアラビアの観光産業で商機を探っていた。そして、岸田首相のサウジアラビア訪問に先駆けて2023年6月にコトツナとの提携を発表した。サムーンは、サウジアラビアでKotozna In-roomの提供を2023年内に開始する計画だ。

Kotozna In-roomでは宿泊客と従業員はそれぞれ自言語でチャットできる(出所:コトツナ)
Kotozna In-roomでは宿泊客と従業員はそれぞれ自言語でチャットできる(出所:コトツナ)
[画像のクリックで拡大表示]