神社仏閣や公園内でふれ合える鹿など観光資源に恵まれながら国内最下位クラスの宿泊者数だった奈良県に高級ホテルが相次ぎ出店している。29日には不動産開発大手の森トラストと米ホテルチェーンのマリオット・インターナショナルが組む最高級ホテルが誕生。訪日外国人客が急増するなか、課題だった富裕層の受け皿となる宿の少なさが解消されつつある。
奈良市の奈良公園内で29日に開業する「紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良」は、森トラストとマリオットの最高級ブランド名をそれぞれ冠した超高級ホテルで、大正時代に建造された奈良県知事公舎を活用して開発された。
館内には昭和天皇がサンフランシスコ講和条約批准書に署名した「御認証の間」が現存。43の客室が新築され、1室しかない最高級スイートルーム(宿泊料は1泊2人朝食付きで約82万円から)も予約が初日から入った。羽鳥寛之総支配人は「奈良のここでしかできない本物の体験を提供できる」と意気込む。
奈良公園周辺の高級ホテル開発は新型コロナウイルス禍でも進められてきた。令和2年6月には「ふふ奈良」が開業。客室内に天然温泉風呂を備え、全30室すべてを異なる内装にした高級感が特色だ。京都や箱根など6カ所に展開する「ふふ」のファンは多く、「リピーターが客室稼働を押し上げている」(担当者)という。同年7月には「JWマリオット・ホテル奈良」も進出した。
観光庁の調査によると、奈良県の4年の宿泊者数は207万1520人で47都道府県中44位。3年は最下位だった。旅行業界関係者は「奈良は日帰りで十分とみる向きが多い」とし、訪日客も大阪や京都を宿泊地に選ぶ傾向が強い。
このため奈良県は「長く滞在してくれる富裕層を取り込みたい」(担当者)と、高級ホテル誘致に力を入れている。奈良市内では今後も「旧奈良監獄」の建物を生かした日本初の監獄ホテルが6年以降に計画される。国の重要文化財で、刑務所として使われていた施設を、滞在性の高い高級ホテルにどう生まれ変わらせるか注目が集まっている。
ホテルジャーナリストの井村日登美氏は「奈良県内のさまざまな魅力を官民一体となって発信してブランディングすれば、国内外から宿泊客を呼び込めるはずだ」と指摘している。(田村慶子)