JTB、「ホームパーティー」で稼ぐ 問題意識をチームで形に
JTBは7月からホームパーティーを企画・開催するサービスの実証を始めた。家の中でのサービスは同社として初めてだ。異なる部門の社員2人がそれぞれ抱いた問題意識を事業コンテストに提案し、内容を組み合わせる形で試験導入にこぎ着けた。2023年度の本格導入に向け、チームは外部の知見を活用しながらホテルや飲食店などと交渉する日が続く。
JTBは7月15日からホームパーティーの企画支援サービス「Living Auberge」(リビングオーベルジュ)の実証を始めた。JTBが料理から食器類、シェフやソムリエなどの専門スタッフの手配までを担い、利用者は準備から後片付けまで気にすることなく楽しめる。料金は4人の利用で1人あたり3万円からを想定する。
社員2人の問題意識を形に
企画の始まりは21年に社内で開かれた新事業公募制度「JUMP!!!」だ。異なる部門の社員2人のアイデアが組み合わさり、形になった。
一人が東京中央支店(東京・千代田)で法人営業のグループリーダー、日高彬人さんだ。当時、妻が妊娠中で「子育ての忙しい時期には外出や旅を楽しみづらい」と聞き、不便を解消しようと非日常を味わえる料理を家庭に届けるアイデアを思いついた。
もう一人が法人向けのマーケティングを担当していた大泉智敬さん。新型コロナウイルス禍で社員旅行や表彰式などができない企業の課題に直面していた。「集まれないなら、社員それぞれの家に特別な料理が届けられるサービスがあると良いのでは」と法人向けの食のデリバリーサービスを思いついた。
500件近い応募は書類選考を経て10件まで絞られ、2人の提案がそれぞれ残った。コンテスト事務局の福田敦さんと大田仁美さんは、個人・法人の違いはあるが、互いの提案の根幹にあるのは「非日常の食のサービス」と分析し、連携を打診した。初対面となった2人は一緒に最終プレゼンに臨むことになった。
優れたビジネスプランや熱意が伝わり、最終プレゼンで最優秀賞を獲得した。22年春からは実証にコマを進めたが、そこで壁にぶち当たる。当初の案は1人あたり1万円からのパッケージ商品が主軸。収益を確保するためには年数万個を売る必要があり、飲食店などの協力が必要だった。22年はコロナ禍が落ち着いてきて飲食店には客足が戻りつつあったため「新しいことをやる余裕がない」と断られることが続いたという。
一方、需要が根強いことは見えていた。ウェブ上で約2000人にアンケートしたところ、特に富裕層や労力を惜しみたい子育て世帯からのニーズが強かった。「準備から後片付けまで全てを賄うことが評価されるはず」と自信はあった。
提携する飲食店は約20軒、派遣できるシェフも約20人そろえた。料理などのサービスは全てオーダーメード、またはパッケージ化したものの大きく2種類で、ともに料理から会場の装飾まで空間を演出するのが特徴だ。アンケートからオーダーメード型は1人3万円以上の価格で、パーティー全体で100万〜200万円の商品もある。
営業利益27年度には10億円
利用者に満足してもらうには料理のほか、居心地の良い空間も重要になるため、外部のノウハウを活用する。
22年10月からはコンサルティング会社に所属する笹野真帆さんが、23年4月には社内で提携販売店向けの営業をしていた長尾好希子さんがチームに加わった。サービスではJTBが空間演出まで担うため、笹野さんの色彩のスキルが生きる。大の新規事業好きで社内のコンテストに毎回参加してきたという長尾さんは「五感を刺激する商品」とサービスの魅力を語る。長尾さんは年度内のサービス発表に向けて、ホテルなどとの交渉も担当する。
JTBによる同企画への思い入れは強い。社内には「JUMP!!!」のほか、2つの事業立案コンテストがあるが、事業化できたサービスはまだない。今回は第1弾として27年度までに営業利益で10億円を稼ぐ目標だ。これには年2000〜3000件のパーティーを開催する必要がある。
JTBの会員組織などから利用者を募り、今は15件ほどの案件が動く。利用者からは「欧米と比べて遅れていた日本のホームパーティーのインフラが整い始めた」と評価する声がある。構想から2年近く。コロナ禍で移動がしづらい苦境の中から旅行会社が生み出したサービスは新しい交流の形を生み出そうとしている。
(北川舞)
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