自転車を列車やバスの車内にそのまま持ち込める「サイクルトレイン」「サイクルバス」と呼ばれる取り組みを推進するため、国土交通省が事業者や自治体向けの手引きを作成した。自転車を持ち込めれば観光や通勤・通学、買い物などで移動範囲が広がり、鉄道の新たな需要喚起につながることを見込む。国交省は持ち込み時のマナーを啓発し、サイクルトレインの普及を目指す考えだ。(大竹直樹)
サイクルトレイン・バスは混雑の少ない地方のローカル線ですでに導入が進んでいる。国交省の手引きでは、全国の鉄道会社5社とバス会社3社の導入例のほか、海外の先進事例などを紹介。平成15年にサイクルトレインを導入した群馬県の上毛電気鉄道では、買い物利用などで自転車を車内に持ち込む乗客が年間約4万人(令和2年)に達し、利用促進に効果があった。
和歌山県南部の太平洋沿いを走るJR紀勢線では、ワンマン列車の車両にIC乗車券の車載型改札機を搭載。追加料金不要で自転車を持ち込めるようにした。鉄道評論家の川島令三氏は「サイクルトレインの実施には、自転車を押してホームまで行ける構造にする必要があり、バリアフリー対策にも合致する」と話す。
ただ、混雑する都市部の鉄道・バスでは、自転車持ち込み時の安全性の確保も課題だ。川島氏は「首都圏の混雑路線では自転車を持ち込める専用の列車を仕立てるのが現実的だ」とし、一般の乗客とのすみ分けが必要との見解を示す。
このため、首都圏の鉄道各社はサイクルトレインの本格導入に向けた実証実験を相次いで進めている。東京・新宿と高尾山方面を結ぶ京王電鉄は、台湾の自転車メーカー「ジャイアント」の日本法人と協力し、有料の座席指定制列車「Mt.TAKAO」号で実施。西武鉄道は埼玉県の秩父方面に向かう特急「レッドアロー」号などで、座席と自転車をベルトでしっかりと固定し、走行中の安全性などを検証した。
自転車の車内持ち込みを前提に設計された列車もある。東京と千葉県の房総半島を結ぶJR東日本の臨時快速列車「B.B.BASE」(BOSO BICYCLE BASE)の車内には、走行中に自転車の転倒を防ぐラック99台分を用意。乗車券と指定席料金(840円)だけで乗車でき、平成30年の運行開始以来、自転車愛好家らの支持を得ている。
NPO法人自転車活用推進研究会の小林成基理事長は「公共交通機関と自転車の親和性を高める動きが広がっている。今後は利用者も汚れたタイヤを車内に持ち込まないといったマナーやモラルが問われてくる」と話す。国交省の手引きでは、車いすやベビーカーが優先であるとのルール・マナーを車内に明示し、利用者間の相互理解を図ることが重要と指摘している。
政府の自転車活用推進計画は、自転車と観光資源を連携させた「サイクルツーリズム」推進による観光立国の実現を掲げ、サイクルトレインは「実施すべき施策」に位置づけられた。
国交省自転車活用推進本部の金籠(かねこ)史彦事務局次長は「自転車の車内持ち込みは利用者だけでなく事業者にもメリットがある。日常、非日常の両面で普及が進めば、地域全体で好循環を生み出せる」としている。