バーチャルヒューマン、AIで自然な会話 表情も豊か
奔流eビジネス(D4DR社長 藤元健太郎氏)
スイスのテレビ局で朝の天気予報番組に登場した女性気象予報士が話題になっている。彼女は「バーチャルヒューマン」であり、その表情や解説は人間とほとんど区別がつかないと評判だ。知らないで見た視聴者には実在の人間と思い込んでいる人もいるだろう。テレビ局は当初、人間の採用を予定していたが適任者が見つからなかったため、バーチャルヒューマンの起用に踏み切ったという。
国内でもNTTコミュニケーションズがユニークなバーチャルヒューマン「CONN(コン)」さんを採用(開発)した。帰国子女でヨーヨーが得意など詳細な人物像が設定され、社員としてショールームの案内をしたり、ウェビナーイベントの司会をこなすなどの役目を与えられている。
その顔は実在の男女9人の社員の顔データをスキャンした上で混合モデルとして作り上げられている。音声データや動作のモーションキャプチャーも全て実在の社員のデータを基にしており、本当に存在していそうなリアリティーのあるキャラクターになっている。
バーチャルヒューマン活用のメリットは、何よりも休まず働くことができことにある。業務知識も完璧で多言語対応が可能だ。顧客データと連係させれば全ての顧客のことを間違えることなく理解した上で接客できるなど頼もしい。今後広がるメタバース空間でも活躍してくれるだろう。
これまでのビジネスでも接客アバターとしてアニメやVチューバーなどを活用することがあった。人間らしさを消してアニメキャラクターなどの方が親しみやすいシーンもあるだろう。一方、接客やコールセンターの対応などは「人間」としての対応の方が心理的な信頼や安心などを顧客に与える効果がある。自動販売機の画面にバーチャルヒューマンがいるだけで温かみがでたり、無人店舗では見られている感覚から犯罪抑止になるとも思われる。
過去にはロボットの「ペッパー君」を受付に使うなどの試みもあったが、自然な会話には限界があった。しかし、現在話題の「Chat(チャット)GPT」など人工知能(AI)の登場で、これまでより圧倒的に自然な会話が可能になりつつある。また、生成AIによって顔の表情や動作などを簡単に再現できることもバーチャルヒューマンの実用化を後押ししている。
今後は方言を話すなど人格に個性を持たせることも可能になり、より人間臭さの再現もできるようになるだろう。
日本はバーチャルヒューマンに対しては強いニーズがある。新型コロナの感染状況が落ち着いてきたことで飲食や観光業界などサービス業界では需要が回復しているが、労働力不足が深刻となっている。中長期的に見ても労働人口が減少する中で、AIやロボットの活躍への期待が大きい。
ただ、人間の役割を無機的にロボットなどに置き換えるだけでは何か味気ないので、人間らしさを感じさせてくれるバーチャルヒューマンの出番になる。
一方、SF映画でもあったが、バーチャルヒューマンがリアリティーや人格を持ち過ぎることで人間との距離感が問われるかもしれない。まさにAIと人間の共生時代の象徴的な存在として注目度が増している。
[日経MJ2023年5月19日掲載]
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