コロナ禍も堅調 「推し活」に商機 鉄道会社などが応援企画 新たなニーズ掘り起こし

「推し」を応援する名前入りポスターの駅掲示イメージ(JR東日本提供)
「推し」を応援する名前入りポスターの駅掲示イメージ(JR東日本提供)

お気に入りのアイドルやキャラクターを応援する「推(お)し活」需要を見込んだユニークな取り組みが鉄道会社などで始まっている。推しの対象は、アイドルやアニメ、動物などさまざまだが、各社とも「推しのためなら出費を惜しまない傾向」(専門家)を商機と見込む。新型コロナウイルス禍で収入源に苦しんだ業界をファンの熱狂が後押しする。

駅に掲示されるアイドルの公式ポスターに1口1万円で自分の名前を入れ、推しを応援できる-。こんなサービスの実証実験を始めたのは、JR東日本グループだ。

男性歌手グループ「WATWING(ワトウィン)」とコラボし、4月に開催されるライブ会場の最寄り駅や乗換駅となる品川、浜松町、新橋駅などにポスターを掲示。JR東の担当者は「社員が推し活をする中で感じていた手間や不便さを解決するサービスができないかと考えた」と明かす。今後は他のアイドルやキャラクターとの連携も検討する。

インターネット通販サイト「au PAY マーケット」は、アニメの人気声優とコラボした宿泊プランを企画。人気声優が宿泊客の名前を呼んでモーニングコールする音声などを収録したCDがセットになり、眼福ならぬ「耳福ホテルプラン」と銘打った。25組限定で募集した第1弾は販売開始からわずか28秒で完売。今回で第3弾となるホテルニューオータニ(千代田区)などのプランも好評という。

サイトを運営するauコマース&ライフ(渋谷区)の金子幸喜さん(40)は「反響の大きさに驚いている。戦隊ヒーローのオタクを公言する妻は『自分が経済を回す』と意気込んでいたが、体験や個人志向を重視する推し活の時代が来た、と肌で感じる」と話す。

民間調査会社の矢野経済研究所が発表した国内の「オタク」市場は、令和3年度が前年比2・2%増の約6687億円で、4年度は約7164億円とさらに膨らんだ。アニメやアイドルに限らず、コロナ禍の巣ごもり需要もあり、プラモデルや鉄道模型など幅広い分野で堅調に推移した。

ニッセイ基礎研究所主任研究員の佐久間誠さんは「コロナ禍で消費を我慢していた分、自分が応援したいものに対する潜在的消費意欲が高まっており、今後もこの傾向は加速していく」と分析する。

推し活のためのグッズもある。バッグメーカーのエース(渋谷区)は、外出先で利用者が推し活グッズを持ち歩くことを想定し、専用の収納ケースなどを設けたスーツケースを3月に発売。担当者は「推し活の『遠征需要』を見込んで開発した」と振り返る。

一方、アニメや漫画のファンが作品の舞台になった場所を訪れる「聖地巡礼」も盛んだ。静岡県沼津市が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」とコラボした「推し旅」を企画するJR東海は、推しの対象を動物にも広げた。

参加者が「象主」になれる旅行プランは、ツアー代金30万円と高額にかかわらず、定員6人を大きく上回る46人の申し込みがあった。旅行代金の半額は、愛知県豊橋市の豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)に寄付され、象の餌代になるという。

盛り上がりをみせる推し活需要について、佐久間さんは「コロナ禍でダメージを受けた鉄道会社や旅行業界にとって、推し活は新たなニーズの掘り起こしにつながる」と話している。(大竹直樹)

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