東北の観光振興は「クルーズ船誘致」がカギ…魅力発掘・発信でリピーター確保へ

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編集委員 倉貫浩一

 東日本大震災の発生から12年がたつが、東北地方は産業創出や観光振興などの課題を抱えている。そうした中でも米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)が1月に発表した「2023年に行くべき52か所」の旅行先に、盛岡市が選ばれた。「豊かな自然や和洋折衷の伝統的な建物が並ぶ市内を、歩いて楽しめる」などと評価された。東北地方の観光資源のポテンシャルの一端を示したと言えるだろう。

まだまだ低い「認知度」「訪問意欲」

 とはいえ、外国人観光客の東北地方の観光地としての認知度や訪問意欲は、他地域に比べて現状では高くない。日本政策投資銀行(政投銀)の東北インバウンド意向調査によれば、欧米豪、アジア各国の認知度は最も高い「福島」が29%、「仙台/松島」が15.6%、訪問意欲はそれぞれ5.6%、3.9%と低い。

東北経済連合会が誘致したクルーズ船
東北経済連合会が誘致したクルーズ船

 こうした状況を打開する取り組みとして東北経済連合会(東経連)が目を付けたのが、訪日外国人向けのクルーズ船の誘致だ。一隻あたり数千人の観光客が訪れ、船内で宿泊できるのでホテル・旅館不足への対応も容易だ。外国人観光客にはまだ知られていない祭りや食、文化を掘り起こし、クルーズ船を運航する事業者や地元自治体、商工会議所などと協力して東北各地の港に寄港を促す。ポイントは港から観光バスに乗って1時間半程度で行ける圏内で観光客が楽しめるイベントや体験ツアーの存在だという。東経連の佐藤信康常務理事は「復興支援道路の完成で三陸沿岸の港からのアクセスが格段に向上した。これによって、ツアー企画が可能になった盛岡さんさ踊りの時期に合わせてクルーズ船を誘致するなどの取り組みを進めている」と語る。

 東経連の調べによると、東北・新潟へのクルーズ船の誘致は、旅行会社や自治体が独自の取り組みで進めていたが、2016年は年間22回にとどまっていた。17年から東経連が東北・新潟エリアで観光資源の発掘とクルーズ船誘致に取り組み始め、19年は60回に増加したが、新型コロナウイルスの感染拡大で20~22年はゼロに落ち込んだ。政府がクルーズ船の受け入れ再開を決めたことで、23年には東経連が主導した33回の誘致が実現する見通しで、全体の69回(2023年1月時点)の底上げに貢献している。

観光資源を発掘し、発信し続ける

東北各地の観光資源の発掘が重要だ(盛岡さんさ踊り実行委員会提供)
東北各地の観光資源の発掘が重要だ(盛岡さんさ踊り実行委員会提供)

 政投銀の調査によれば訪日旅行で東北地方に期待する体験として「自然や風景の見物」「温泉の入浴」「桜、雪景色の観賞」などへの希望が多い。東北や新潟の観光資源を発掘し、発信し続けることが観光客のリピーターを増やすカギを握っている。コロナ禍を契機に鉄道各社は赤字路線を支える余力を失っている。クルーズ船は訪日外国人だけでなく、国内旅行客の取り込みも期待できる。観光客誘致は多様な移動手段を考えることが重要となりそうだ。 

プロフィル
倉貫 浩一( くらぬき・こういち
 1989年入社。さいたま支局を経て、94年から経済部で財務省、総務省、銀行など産業界全般を担当。論説委員を経て、2018年から編集委員。バブル崩壊から平成の日本経済の浮沈を取材してきた経験から、新型コロナウイルス感染拡大後は、企業経営や雇用問題、エネルギー問題などの取材に取り組んでいる。

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3971251 0 編集委員の目 2023/04/04 10:00:00 2024/02/15 14:20:12 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/03/20230330-OYT8I50053-T.jpg?type=thumbnail

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