海の〝開国〟へ外国船の国際クルーズ3月再開 日本船第1号は集団感染なし

新型コロナウイルス感染の水際対策で停止していた外国船の国際クルーズ(日本発着含む)の受け入れが3月から再開される。待ちわびていた寄港地やクルーズ業界は、訪日外国人観光客(インバウンド)による経済効果を期待。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染から3年を経て、外国船の寄港への懸念も和らいできているという。ようやく海の〝開国〟が本格化する。

「また港のにぎわいが戻ってくる。非常に楽しみだし、ありがたい」

ドイツのクルーズ船が3月1日に訪れ、外国船社による来航再開第1号の事例となる予定の清水港(静岡市清水区)。区の担当者は今から期待を膨らませる。

コロナ禍前は多い年で約40隻が寄港していた。乗客たちは市内外に観光へ繰り出す一方、クルーズ船見物に来る人々もたくさんいたといい、「1隻当たりの経済効果は6400万円との試算もある」(担当者)と効果の大きさを強調する。

3月1日の入港に合わせ、岸壁では市民による演奏会や物産展を開き、乗客を歓迎する予定という。

国土交通省の資料によると、訪日クルーズ船の外国人旅客数は平成25年の17万4千人から、29年にピークの252万9千人まで急上昇。令和元年まで3年連続で200万人を超えた。国内港への寄港回数も当初は国内船社のクルーズ船が多かった(国内クルーズ含む)が、平成26年に外国船社が逆転し、29年には2千回を超えて全体の7割以上を占めた。

国交省によると、訪日クルーズ客の旅行消費額は805億円(令和元年報告書)。インバウンド全体の消費額と比べると小さいが、飛行機ではアクセスしにくい地方部が潤うメリットがあるほか、日本発着で日程の大半が国内港を巡るコースのクルーズも多い。外国船は定員2千~3千人級の大規模船がざらで、一度の寄港による経済効果は大きいとされる。

コロナ禍ではその需要が蒸発。3~4年は国内外船ともに国際クルーズの寄港がほぼゼロとなった。

日本での国際クルーズを巡っては、令和2年2月のダイヤモンド・プリンセス号の集団感染を受け、長らく停止したままだった。だが、欧米などで3年中ごろから運航再開が活発化。日本でも徐々に水際対策の緩和が進み、業界団体の要望もあって国交省が昨年11月に受け入れ再開を発表した。

再開に当たっては、業界団体が国の支援を受けてコロナ対策のガイドラインを策定。船内で感染者が出た場合は隔離対応とし、重症者らは寄港先の自治体で対応する。また、汚染エリアと通常エリアが混在しないよう同一エリアに十分な数の隔離室を設けることや、訓練を受けた医療スタッフの配置など詳細を定めた。

各船社は寄港地を決める際、地元側から合意を得る必要もあるという。

主に外国船社でつくる日本国際クルーズ協議会の山本三夫事務局長は、ガイドラインについて「(他国と比べ)相当厳しいはず」と説明。現時点で5年はダイヤモンド・プリンセス号を含め212隻が国内に来航予定だが、「売れ行き好調でキャンセル待ちが出ているケースもある」と話す。

昨年12月には一足早く国内船社の国際クルーズが運航を再開したが、今年1月にダイヤモンド・プリンセス号の元乗客らが記者会見を開き、運航再開を批判するなど反対の声もある。ただ、ある自治体の担当者は「コロナ禍に入って3年がたち、各船社も経験を積んでいる。ウィズコロナで世の中の流れは変わってきている」と語った。

日本船第1号は集団感染なし

外国船に先駆けて昨年12月に国際クルーズを再開した日本船の「にっぽん丸」は、帰港までの約1カ月半で、乗員乗客472人のうち15人が新型コロナウイルスに感染した。だが、業界で策定したガイドラインに沿って、PCR検査や有症者らの隔離を徹底。集団感染を起こすことなく予定通り全日程を終えた。

横浜港発着の同船は昨年12月15日~今年1月31日の48日間で、モーリシャスやマダガスカルなどインド洋の島国を巡った。

運航する商船三井客船(東京)によると、乗船したのは、出発1週間前までの検査キットによる検査で陰性だった上、乗船前も発熱がなく、改めてPCR検査で陰性だった乗客のみ。

それでも検査をすり抜けるケースが想定され、全日程の中で定期的に計6回のPCR検査を実施。実際に出港2日後、寄港地の石垣島(沖縄県)に入港する前の検査で男女2人の陽性を確認。その後も出国後、散発的に乗員3人、乗客10人の陽性が確認された。

同船では隔離室を18室設け、感染者のみならず、有症者や濃厚接触者も速やかに隔離。感染者は次の寄港地で下船し、治療した上で個別に帰国の途に就いた。各寄港地には担当者が配置され、感染者のサポートに当たった。ガイドラインにない独自の対応も含め、万全の態勢で臨んだという。

同社の広報担当者は「今回のやり方で無事に帰港できたのは、一つの自信になった。モデルケースになるだろう」と話している。(福田涼太郎)

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