観光客に人気の「バス1日券」なぜ廃止 京都市が乗り出す混雑緩和策の是非

清水寺や祇園へ向かう京都駅前バス乗り場は季節を問わず多くの乗客でにぎわっている=2月17日、京都市下京区
清水寺や祇園へ向かう京都駅前バス乗り場は季節を問わず多くの乗客でにぎわっている=2月17日、京都市下京区

新型コロナウイルスの行動制限がなくなり、昨秋の紅葉シーズンにはコロナ禍前の6~7割の観光客が戻ってきた京都。観光関連産業の需要回復が期待される一方、観光地に住む人の生活環境が悪化する「オーバーツーリズム(観光公害)」の再燃も懸念される。そうした中、京都市は〝混雑緩和大作戦〟に乗り出した。安価でお得な市バス1日乗車券を来年3月に廃止して、バスの混雑を緩和するほか、観光地や京都駅など10カ所の混雑状況をライブカメラで「見える化」する取り組みの利用を呼び掛ける。果たして作戦の効果はいかに。

700円で市内観光網羅

京都市バス1日券廃止へ-。今月、このニュースを知った東京都内の60代の自営業女性は衝撃を受けた。女性は年数回、京都旅行に訪れるため、「観光客にとって強い味方だったのに。再考してほしい!」と悲痛な叫びを上げた。

市バス1日券は、大人700円で市内多くの観光地を網羅する均一運賃区間(230円)内が、市バスだけでなく民間バス2社も含め1日乗り放題となるお得なチケットだ。

コロナ禍前の令和元年度には329万枚を販売した。そうした影響もあり、市バスは観光客らで混雑し、バス停の乗客が乗り切れない事態がたびたび発生。生活手段としてバスを利用する市民にも悪影響がおよび、オーバーツーリズムの一因となっていた。

多くの観光客は、市バス1日券を買い求めるとバスだけで観光地をめぐろうとする。ただ、実際は地下鉄も利用した方が移動時間は短くすむ。たとえば人気スポット、金閣寺(北区)へは京都駅から市営地下鉄、バスと乗り継げば38分で到着するが、バスのみだと通常は52分、渋滞や混雑を加味すれば1時間以上となる。

バス・地下鉄券にシフト

混雑の一因がバス1日券にあるとみた京都市交通局は、1日券を値上げするか、思い切って廃止するかを検討。利用者の9割が観光客であることから、令和6年3月末での廃止を今月、決めた。交通局の北村信幸局長は「バスの混雑回避というメッセージを伝えるには値上げではなく、廃止の方がより伝わると判断した」と語る。

その代わりに打ち出したのが、もともとあった「地下鉄・バス1日券」(1100円)への誘導だ。さらに、特に混雑する4カ所のバス停から京都駅へ向かう観光客に、最寄り駅から京都駅まで無料で地下鉄に乗れる振り替え券を配布するほか、大型手荷物のバス内への持ち込みを避けるため、宿泊施設などに手荷物預かりや配送サービスの導入を促す。北村局長は「バスに依存し過ぎる現状を見直し、地下鉄や電車と組み合わせたルートへと誘導することで市民生活と観光との調和を目指したい」と話している。

AIで混雑予測も

混雑はバスだけではない。以前から京都市では時期・時間・場所の「3密」が課題となっていた。市は令和3年4月、京都駅前バス乗り場やねねの道、花見小路など特に観光客が集中する10カ所に順次カメラを設置し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で生映像を配信。4年4~12月の視聴回数は608万回に上った。

また、スマートフォンの位置情報や天気、時間などのビッグデータをもとに人工知能(AI)によって、エリア別の混雑度を2カ月先まで5段階で表示する「観光快適度予測」も実施。5年度は新たにライブカメラ映像の分析を加えて、予測精度を向上させる。市観光MICE推進室の小川健一郎課長は「便利なツールなので、混雑回避のために利用して快適な京都観光を楽しんでほしい」と呼び掛ける。

約1カ月後に迎える本格的な春の観光シーズン。観光客にも市民にも快適な時間が訪れるのか、さまざまな作戦の効果が問われている。(田中幸美)

会員限定記事会員サービス詳細