経済インサイド

インバウンド急回復の外食 旅行会社と協力『体験型』に商機 人手不足深刻化も

鍋料理を味わうベトナム人観光客=昨年12月28日、東京都千代田区の「北海道」秋葉原店(酒巻俊介撮影)
鍋料理を味わうベトナム人観光客=昨年12月28日、東京都千代田区の「北海道」秋葉原店(酒巻俊介撮影)

急回復する訪日外国人観光客(インバウンド)を呼び込もうと、外食産業が策を凝らしている。昨年10月に新型コロナウイルスの水際対策を大幅に緩和した効果で、伝統的な和食のみならず、居酒屋や焼き肉店が日本ならではの「食の体験」ができるとして訪日客の人気を集める。コロナ禍で苦境が続く外食は、訪日客を呼び水に客足の戻りを狙う考えだ。

「日本に来られるのを心待ちにしていた。海鮮はどれも新鮮で、食事は旅の楽しみの一つ」

昨年12月28日のお昼時。居酒屋チェーン「北海道」秋葉原店(東京都千代田区)で、ベトナム人観光客25人は海鮮鍋に舌鼓を打った。食べ終わった鍋に自分でうどんを入れて再度楽しむという〝シメ〟が、ベトナムにない食べ方だと好評だ。このツアーを企画したベトナムの旅行大手の担当者は、「日本は一番人気の旅先」と話す。

■パッケージツアーで食事の場を提供

運営する外食大手のコロワイド傘下のレインズインターナショナル(横浜市)は、国内外の旅行会社と協力し、パッケージツアーでの食事の場を提供している。同社が運営する焼肉チェーン「牛角」や「しゃぶしゃぶ温野菜」は特に訪日客の人気が高く、昨年7月から訪日客売り上げが上昇している。訪日客数が過去最大だったコロナ禍前の令和元年比では、昨年9月は16・4%、同10月は30・4%、同11月は46・7%、同12月は70・7%。コロナ禍前には届かないものの、右肩上がりを描く。

担当者によると、自分で焼いて食べる焼肉やしゃぶしゃぶは、日本の食文化の体験になっているといい、「食べ放題・飲み放題」の珍しさや、手ごろにさまざまな料理が楽しめる居酒屋は日本食レストランとして高い需要があるという。

外食が旅行会社と提携する動きは広がりをみせる。居酒屋や焼き肉の人気は高い一方、訪日客のみでは予約が難しく、外国語対応可能な店かも不安が残る。外食側も現地につながりがなく、訪日客へのアピールの仕方がわからないという悩みを抱えがちだが、旅行会社が仲介することで希望に応じた店をつなぐことができる。外食側は、数十人単位の予約が一度に入ることが最大の利点だ。

■外食と旅行会社の提携拡大

ワタミも旅行会社との提携をコロナ禍前から始めており、訪日客の回復が見込まれるようになって再開した。すしに特化した居酒屋「すしの和」では、訪日客向けにすしの握り体験を実施。目の前で魚をさばくパフォーマンスも披露する。同社は居酒屋など計5業態で旅行会社と協力している。

すかいらーくホールディングスも「しゃぶ葉」や和食レストランの「藍屋」「夢庵」などで団体客を受け入れる。昨年6月から徐々に予約が入り始め、足元では元年比の8割程度に回復した。

一方、国内旅行会社側も外食と手を結ぶことに利点がある。コロナ禍の影響が直撃した旅行と外食の両業界にとって訪日客の回復は待望であったものの、実際に水際対策が緩和されてみると、コロナ禍前に訪日団体客を受け入れていた大箱の店は閉業に追い込まれてるケースが相次いでいた。

体力のある外食大手であれば、席数も多く、ある程度の外国語対応も可能だ。旅行会社と外食とで利害が一致した。日本旅行の担当者は「2年半ぶりに再開したことで状況の変化があった。(居酒屋などの料理は)日本の食文化を体験できると満足してもらっている」と話す。

■人手不足が課題

ただ、外食はもろ手を挙げて喜んでいるわけではない。外食大手関係者は、「訪日客をこれだけ受け入れられるということは、裏を返せば日本人だけではもう店は埋まらないということだ」と警鐘を鳴らす。

コロナ禍が依然として続き、特に酒類を提供する居酒屋形態は影響が色濃い。頼みの綱である訪日客も、コロナ禍前の最大市場だった中国客の戻りが業績回復には不可欠となる。

外食産業の目下の課題は、中国を含む訪日客への対応力と深刻な人手不足解消だ。中国では「ゼロコロナ」施策が事実上撤廃され、海外旅行が再開すれば来日する中国人客も増える。今後、ますます増えるであろう訪日客の戻りに期待する半面、手を打たなければ人手不足は深刻化していく。

食品卸のプレコフーズは、展開する焼き鳥店「とりや幸」の新店舗を渋谷駅直結の駅ビルで昨年12月に開店したところ、平日夜の利用客のうち約7割が訪日客だった。「ここまで訪日客が多いとは思わなかった」(同社担当者)として、急きょ外国語対応のスタッフを増員。メニューも英語や中国語を強化し、対応を図る。

帝国データバンクが行っている企業の人手不足の動向調査によると、人手不足と感じる「飲食店」企業の割合は、昨年10月時点で、正社員については64・9%で全業種中3位、非正社員については76・3%で同1位だった。また、他業種と比較して時間外労働が多いという結果だった。

外食大手関係者は「客足がコロナ禍前に戻らず苦心しているが、人手のない今の態勢でコロナ禍前の水準に戻っても対応しきれない」と話す。人手を確保しようと時給を上げるなど待遇改善を試みる外食も増え始めているが、時間外労働などの激務が重なれば離職にもつながる。客足の戻りに伴う人員の確保や対応力が求められている。(飯嶋彩希)

会員限定記事会員サービス詳細