中国人客戻らず インバウンドビジネスは戦略転換期に

ミナミの街を観光する海外からのインバウンドら=16日午後、大阪市中央区(須谷友郁撮影)
ミナミの街を観光する海外からのインバウンドら=16日午後、大阪市中央区(須谷友郁撮影)

政府が新型コロナウイルスの水際対策を10月11日に大幅緩和して1カ月以上が経過し、関西でも訪日外国人客(インバウンド)の姿が少しずつ戻り始めた。コロナ禍前にインバウンドで潤った旅行や百貨店などの業界では期待がふくらむが、コロナ禍前の牽引(けんいん)役だった中国人客が「ゼロコロナ」政策のため戻っていない。インバウンド向けビジネスは魅力を効果的にPRして客単価を上げるなどの戦略転換を迫られている。

今月1日、関西国際空港と京都を結ぶJR西日本の特急「はるか」が全便の運行を再開した。コロナの影響で利用客が減り、同社は令和2年9月から一部運休していたが、水際対策緩和を受けて再開を決めた。

「追い風をしっかり受け止めていきたい」。坪根英慈取締役は力を込めて話す。「ホテルでもインバウンド利用がコロナ前比2~3割は戻り、週を追うごとに増えている」

実際、大阪出入国在留管理局関西空港支局によると、今年10月に関空から入国した外国人の数は11万6657人で、前月比約2・8倍、前年同月(3743人)の約30倍となった。

百貨店などで買い物する外国人も目立つ。あべのハルカス近鉄本店(大阪市阿倍野区)で10月の免税売り上げは前月比約1・3倍。阪急阪神百貨店を傘下に置くエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの荒木直也社長は「円安で(宝飾品などの)ラグジュアリーブランドが活発に出ている」と手応えを語る。

コロナ前は他店と比べてインバウンド比率が高かった大丸心斎橋店(同市中央区)の営業担当者も店づくりの柱の一つに「インバウンド復活への取り組み」を挙げ、「新しいサービスとして何ができるかを考えたい」と話す。

まだ宿泊者は4%

とはいえ、インバウンドの回復はまだ限定的。日本政府観光局が16日発表した推計値によると、10月の訪日客数は49万8600人でコロナ前の元年10月から80%減。韓国、米国からが比較的多く、元年に全体の約30%を占めた中国からは97・1%減となった。

阪急阪神ホテルズでは、近畿圏にある直営11ホテルの今年10月の平均客室稼働率が約75%で好・不調の分岐点となる70%を4カ月ぶりに超えたものの、外国人客の割合は約4%。約40%を占めた元年10月の水準からは遠い。

うどんやそば店などを展開するグルメ杵屋でも「大阪・天保山など、もともとインバウンドが多かった店ではまだ回復していない印象」という。

ただ、アジア太平洋研究所(APIR)の稲田義久研究統括は「数で戻らなくても客単価を上げることができれば悲観的になる必要はない」と指摘。「2025年大阪・関西万博に向けてコンテンツを磨き、交通機関の使い勝手をよくするなど、インバウンド戦略を再考すべきだ」と訴える。

そんな中、大阪市北区のホテルグランヴィア大阪は、掲示物やウェブサイトの外国語表記(5カ国語)を徹底、資格取得手当を設けてスタッフの語学力向上を支援している。少ない訪問者数でも、高い経済効果を引き出すための工夫が求められている。(牛島要平、田村慶子)

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