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コロナ3年目の夏、意識変化で国内旅行堅調-人手やレンタカーは不足

  • 7-8月に7000万人移動の予測、沖縄や北海道が旅行先人気の上位
  • 観光業界では若年層が離職、レンタカーは半導体不足や車両高影響も
熱海市中心部の「サンビーチ」
熱海市中心部の「サンビーチ」 Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

新型コロナウイルスの感染者数が再び拡大しているものの、3年ぶりに移動規制のない夏を迎え、国内旅行の需要は堅調だ。観光業界にとっては業績巻き返しの足掛かりになる可能性がある半面、働き手や旅行客の移動手段となるレンタカー不足は深刻で、観光インフラの整備が喫緊の課題となっている。

  国内旅行会社のJTBによると、今年の夏休み期間(7月15-8月31日)の国内旅行人数は前年同期比75%増の7000万人と、コロナ禍前の2019年の水準の97%まで回復する見通し。同社の広報担当者によると、8月に入っても目立ったキャンセルはみられないという。エイチ・アイ・エスの調査では、予約者の旅行先上位には沖縄県や北海道、長崎県が並ぶ。

  温泉地として知られる静岡県熱海市では7月、3年ぶりに入場制限を設けずに海水浴場がオープンした。観光協会の西島光章専務理事は「夏休みに入り、首都圏からも大勢訪れている」とし、人出はコロナ禍前の7-8割まで戻っている印象だと話す。花火大会などが行われる週末は、特に家族連れや若い世代でにぎわっているという。

  日本旅行の広報担当富樫里菜氏はブルームバーグの取材に対し「若者やファミリー層の新規予約が入っている」と話した。7月分の個人旅行商品の受注状況(人員ベース)は同月25日時点で前年の約2.5倍、19年比では34%減となったという。足元の新型コロナの感染急拡大でシニア層を中心に少なからず予約のキャンセルがみられるものの、「今のところ全体を通して旅行需要に大きな影響は見られていない状況」という。

  7月28日に東京都の新規感染者数が初めて4万人を超え、病床使用率は1日に50%台まで上昇した。7月1日時点では新規感染者数は3546人だった。医療負荷の大きい自治体が対策強化宣言を出しているが、岸田文雄首相は従来のような一律の行動制限は行わない考えを改めて示したと、日本経済新聞などが7月29日に報じている。

日本人の国内延べ旅行者数の推移(国内旅行全体)

2021年は前年比8.6%減、コロナ禍前の19年比で54%減

出所:観光庁

  観光庁の統計によると、世界がコロナショックに見舞われた20年の日本人の国内旅行者数は前年比50%減の2億9341万人、消費額は同55%減の9兆9738億円に落ち込んだ。21年はさらに減ったが、重症者数の減少などで徐々に警戒感が弱まり、まん延防止等重点措置が解除された今春以降、国内旅行の需要は回復傾向にある。

  ANAホールディングスは1日、4-6月期の国内旅客数は前年同期比3.4倍となり、新型コロナ前の66%まで回復したと説明。ANAHDの中堀公博グループ最高財務責任者(CFO)は同日の決算会見で「通期の業績予想の達成に向けて非常に順調なスタートが切れた」と説明。全日本空輸の井上慎一社長は7月の会見で、再び感染者数が増えても、感染症対策の定着で旅行を控える「単純な構造にはならないのではないか」と話していた。

外資ホテル開業の動き

  コロナ禍で辛酸をなめた宿泊業界にも動きが出始めている。世界で6000以上のホテルを運営する英IHGホテルズ&リゾーツは新ブランドのホテルを23年に大阪市で開業する。沖縄や京都でも開業を計画している。日本担当のマネージングディレクター、アビジェイ・サンディリア氏は、日本のホテルの95%以上を国内ブランドが占めているとし、提携も含め今後の事業拡大に意欲を示す。

  SBI証券の山崎慎一アナリストは感染の再拡大で本格的な旅行需要の回復は先送りになってしまったが、人々の感染対策への意識の変化などから旅客数がコロナ禍前の水準の半分を割るほどの「大きな落ち込みにはならないだろう」と見込む。  

Clifftops On The Coastline
沖縄の人気景勝地の一つ「残波岬」
Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

  一方、受け入れ側にはコロナ感染の拡大懸念以外にも不安材料がある。コロナ不況の長期化で観光業界から多くの人材が離れた結果、深刻な人手不足に直面しているためだ。

  日本旅行業協会の高橋広行会長は6月の総会で、「旅行業に対する将来不安から若年層を中心に転職が顕著にみられた」と指摘。人材の確保や育成は「持続可能な産業とするためには最も重要なテーマだ」と述べた。

  帝国データバンクが5月に発表した調査では、1万1000社超の回答企業のうち、正社員が不足と回答したのは46%で、非正社員不足は27%だった。特に「旅館・ホテル」は非正社員の不足感が目立ち、業種別にみると「旅館・ホテル」の人手不足の割合は56%と「飲食店」の77%に次いで多い。

レンタカー不足

  旅行者の移動の足となるレンタカー不足も顕著だ。沖縄県レンタカー協会の与古田思好専務理事は「6月から満車の状況で、8月の予約は取りにくくなっている」と話す。全国レンタカー協会によると、21年3月末時点の車両数は88万台と、前年3月末の92万台から減少した。

沖縄運輸局に登録されたレンタカーの車両数推移

21年3月末時点で3万2467台、前年比21%減

出所:全国レンタカー協会、自動車検査登録情報協会

  車両を保有しているだけで税金がかかるため、観光客が激減した過去2年余りでレンタカー会社は保有車両数の削減を強いられた。需要回復を受けて車両の発注を急ぐが、半導体不足などの影響で予定通りに納入されず、車両不足を背景にした中古車価格の高騰も増車の妨げとなっている。

  与古田氏は「まさか車が入ってこなくなるとは思ってもみなかった」と明かす。「国の支援策がなくても、沖縄に来たいという旅行客は増える一方だ」と説明。現時点で、新型コロナの感染再拡大を受けたキャンセルは若干あっても、すぐに新たな予約で埋まる状況だという。

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