日系航空会社も販売手数料を削減へ
日系航空会社も販売手数料を削減へ
航空会社が流通政策の見直しを進めている。旅行会社が航空券を販売する手数料率の減額、航空券発券のルール厳格化などがその代表例だ。これらは、旅行会社の経営にも大きく影響する方針であるだけに、旅行会社からは疑問視する声も多い。今回は航空会社の側からこの施策とそれに対する旅行会社の意見を集め、旅行業界に訪れるであろう変化を探っていく。

はじまりは米系航空会社

 ノースウエスト航空が旅行会社に対する販売手数料を7%から5%へと減額する打診したのは5月末から6月初旬。これをきっかけに、アメリカン航空、ユナイテッド航空、コンチネンタル航空、デルタ航空が相次いで販売手数料の減額を旅行会社に告知した。ただし、9%から7%へ減額した際の旅行業界の猛反発とは異なり、今回の措置に対しては旅行会社から不服は聞こえるものの、受入れは「やむなし」という流れがあった。

 この頃、旅行会社からは既に日系航空会社が5%へと追随するという見方が出ていた。正式には10月中旬に日本航空、10月下旬には全日空がそれぞれ、来年4月から5%への販売手数料の減額を正式に伝えている。これにより、欧州系も5%へと追随することが確実視されており、一部の欧州系航空会社の支店長クラスからは「本国に報告する。(5%へと減額する)指示は確実に来るだろう」という声もあがる。

 そもそも、この販売手数料、いわゆるコミッションという制度は旅行会社の販売に対する手間賃のようなもの。航空会社側では燃油費の高騰、GDS/CRSなどシステムの進化による旅行会社の手間が削減されているという見方を背景として、減額措置に踏み切っているという背景がある。

 特に航空会社としてはコストの中でも、燃油費の増大が顕著。例えば、全日空の平成19年度中間決算では燃油費は前年同期から40.9%増、営業費用に占める割合は16%にまで高まり、原油高騰を受ける前の水準である5%から8%程度から大きく割合を高めている。こうした原油の高騰による営業費用の増大はどの航空会社も概ね状況としては同じだ。

 「燃油サーチャージについてはチャージ額により、燃油費のコスト増大分の全てを補填しているわけではない」という航空会社関係者の意見もある。こうした環境の下で削減できる費用を「可能な限りそぎ落とす」という考えが強い。旅行会社へのコミッションを減らし、GDS等に頼らずに旅行会社の販売前線と航空会社のホストシステムを直接つなぐ流通の仕組みも考えられている中では、「可能な限りの費用削減」を至上命題とする余波は日本の旅行会社にも確実、かつ着々と押し寄せてきている、というのが実情だ。

 

航空会社による財務基盤確立の余波

航空会社による財務基盤確立の余波 アメリカなど、日本以外の諸外国では既に導入されているゼロ・コミッションだが、これは流通に対してこれまで以上に経路を絞って、自らのコントロールが可能な形を模索しているものと想定される。つまり、IT運賃等で利益率の低い商品を含め、今一度、自らの手中で運賃価格、収益管理がしやすい流通の形態を取り戻そうとしている。

 航空会社がこうした施策を進める理由には、特に日系については2009年に控える成田空港の拡張、羽田の国際化を見据えて、拡張戦略をとりたい考えがあると想定されている。日系航空会社、各空港会社についても、こうした将来の動向を踏まえた中期計画を策定し、今のうちに財務基盤を確立し、備えたいという考えがある。

 また、外国航空会社についても、アメリカ、ヨーロッパにおいて格安航空会社の台頭により、国内線の競争が激化。収益を上げる路線は国際線と位置づけ、既に財務基盤の確立を整え、国際線を拡張する方向へと転換する動きもある。特に、アメリカ系ではユナイテッド航空は今年2月にチャプター・イレブンから脱却し、アジア路線を含めて路線の拡張に乗り出しているところだ。

 全日空、日本航空ともに中国方面への路線については、先ごろの日中航空交渉の妥結もあり、この冬スケジュールから積極的に増便、新規就航に乗り出した。また、日本航空はこれ以外のレジャー路線については精査を進め、体力の向上を図っている。

ゼロコミッションを見据えて

 航空会社の対応を横目に旅行会社の反応は、コミッションカットの流れについての考え方、対応の度合いも様々だ。最も影響を受けるノーマル、PEX運賃を主力として取扱う業務渡航系の旅行会社については、コミッションの削減は収益減の要素となることが想定される。コミッションが7%から5%へカットされるに留まらず、欧米で先行するコミッション・ゼロの状況について、今後は早い段階で現実になるものと想定しなければならないだろう。ゼロコミッションとなっている欧米、特にアメリカでは規模を売りにしたウェブエージェントをはじめとする旅行会社が興隆していることも踏まえると、これまでの商習慣から変更を余儀なくされる。

 また、旅行会社側からは航空会社との契約時において、目標設定額達成に際しての販売報償費、あるいはオーバーライドコミッションの上乗せを交渉することも想定される。事実、インハウスとホールセールではこうした額に違いがあり、インハウスからは「不利だ」という声もあがっているのが実情。

 大手旅行会社については主にビジネストラベルマネジメントとしてサプライヤーである航空会社のインセンティブから、購入者側からマネージメントフィーによる収益という構造に変える旅行会社もあり、特に、大企業を顧客に持つ会社についてはこうした体制を整えている。業界全体の環境としては、コミッションの削減により、次の事態となる「ゼロ」を見据えた対応を迫られているのが今回の一連の動きの意味するところだろう。

 今回のようなコミッションカット、さらにゼロコミッションへの道筋で最も懸念されるのは業務渡航を取扱う中小の旅行会社。大手だけが、いわゆるBTM市場の全てを囲いこんでいる訳でなく、中小旅行会社は個人のスキルで対応し、顧客を獲得していることも事実。中小旅行会社は今後、価格だけでなく、個人に依存するスキルをどのように維持、継続していくか、体制づくりも急がれるところだ。手数料ビジネス、あるいは代理販売からの脱却ということに声高に叫ぶ業界だが、航空会社の座席販売ということに関しては「IATA代理店」であることから、航空会社側が決めるルールに従う必要があり、ビジネスモデルとして考え直す必要があるだろう。

対価を何処にもとめるか

 今回の販売手数料を減額する動きはアメリカなどで先行するように、「0%」の実施に向けた布石と見る向きは旅行会社の中でも少なくない。ただし、航空会社が販売手数料を削減することは必ずしも流通にかかるコストを減らすというわけではない。航空会社の営業担当者などによると、総客人数、目標設定額達成に際して、「より販売力のあるところに報償を上乗せしている」動きのひとつという。航空会社としては数と利益を同時に追求することを目指しており、具体的にはエコノミークラスで数を、ビジネスクラスで利益を求める構造はこれまでと変わらない。

 「流通全体として、旅行会社の必要性は変わらない」ものの、「販売に伴う利益を求める相手は再考する必要がある」という考えがこうした動きの中で、今後は顕著に見られることになるだろう。エールフランス航空東京・東日本地区支店支店長の中島良夫氏は、今年7月、スカイチーム各社が旅行会社と意見交換をした席上で旅行会社を「代理店から旅行社」へと呼び方を変えたと説明。アメリカ、ヨーロッパの現状を踏まえ、「代理店という形態は難しくなる」とも強調。日本だけが交渉によるいわゆる「ネゴ・フェア」が存続するというより、「正規割引運賃などのパブリッシュ・フェア(公示運賃)が主流になっていく」と言う。

 「インハウスを含め、多くの旅行会社が航空会社に販売手数料を求めるのではなく、変更等の『手間』を消費者に負担を求めるという多くの商売と同様の手法に変化する時期ではないか」と日系航空会社の営業担当者は問いを投げかける。旅行会社は変化を求められるが、市場での「価格」競争力だけでなく、券面の変更などに伴う手間は消費者に求めるよう迫られている。