
パッケージツアー中、レストランでウエイトレスが熱湯の入ったポットを誤ってひっくり返し、旅行者が手足に大やけどを負った。この場合、旅行を企画した旅行業者は、損害賠償責任を負うのか。また、派遣添乗員が現地で直接予約して案内した場合、添乗員ないし派遣先、派遣元が責任を負うべきか??。日本添乗サービス協会(TCSA)作成の「派遣添乗員の業務ガイドライン」&「添乗業務対応事例集」で紹介されたこのケースは、間々起こりうるトラブルのひとつだ。ただし、事例集の説明(右記参照)とは異なる見解もあるので、ここで検討してみよう。
旅行業者、添乗員、派遣元に責任はあるのか

TCSAの事例集では、ウエイトレスのミスと旅行会社のツアー企画、ないし添乗員の予約に、因果関係があることを前提に論じられている。確かに、このレストランを予約しなければ、やけどの事故は生じなかったので、論理的な因果関係は成立しうる。
しかし、損害賠償として必要なのは、「相当因果関係」である。「相当」とは損害と違法行為の間に、単なる因果関係でなく「公平」の観点から、損害賠償責任を負わせてよいという「重要」あるいは「密接」な因果関係を必要とする。
ウエイトレスがお客に対して熱湯をこぼしてしまうのは、極めてまれなケースである。このようなことが起こると予測することは、通常は不可能だ。損害賠償義務の根本にある「公平」の観点では、このような場合「相当因果関係」があるとは思われない。
そのため、こうしたウエイトレスのミスに対して、仮に旅行業者が当該レストランでの食事を旅程に入れたとしても、添乗員が現地で「サービス」で予約をしたとしても、添乗員の予約が旅程上、不可避であっても、その行為が旅行者のやけどと「相当因果関係」があるとは思われない。従って、旅行を企画した旅行業者の損害賠償責任は、ありえないと考えられる。
旅行業者がしてあげられることは
以上の説明から、旅行者のやけどと予約した添乗員の行為に、「相当因果関係」がないことも明らかであろう。添乗員の派遣元はもちろんのこと、派遣先も責任を負うことはないはずである。TCSAの説明では派遣先が責任をとるべきとしているが、私は、派遣先も責任をとる必要はないと考えている。
ただし、旅行者のためにレストランと交渉してあげる必要があるかどうかだが、少なくとも法的にはないだろう。添乗員、あるいは派遣元や派遣先の責任がないという前提で、「サービス」として交渉することは、悪いことではない。もし現地スタッフに余力があるならば、是非、対応してあげて欲しい。
ただし、旅行者のためにレストランと交渉してあげる必要があるかどうかだが、少なくとも法的にはないだろう。添乗員、あるいは派遣元や派遣先の責任がないという前提で、「サービス」として交渉することは、悪いことではない。もし現地スタッフに余力があるならば、是非、対応してあげて欲しい。
[TSCA の見解]
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現地で添乗員が手配したレストランにおける事故の損害賠償 「派遣添乗員の業務ガイドライン」&「派遣業務対応事例集」事例11 より
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事故の内容と対応例
旅行者の要望により、添乗員が現地で直接予約、案内をしたレストランで、従業員が誤って熱湯の入ったポットをひっくり返し、旅行者が手足に大やけどを負った。派遣先(旅行会社)は添乗員が勝手に案内した先での事故であり、手配した報告を受けていないという理由で責任はないとして、派遣元に旅行者への損害賠償費用を請求してきた。派遣元は営業施策上の観点から負担せざるを得なかった。 |
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討論の内容と結論
営業施策上の観点は別にして、顧客の要望により代行者として手配をした先での事故なので、常識的にも派遣先が当該レストランとの交渉窓口になるべきであり、顧客への損害が生じた場合も、レストランへの請求が無理な場合は派遣先が負担すべきであるとの意見で一致した。
添乗員が現地でレストランを直接予約することは、旅程によっては不可欠であり、手配内容については特に事前に報告する必要は無いと思われる。手配の代行者として行った先での事故による賠償責任は、派遣先が果たすべきである。 |
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[参考資料] |
海外旅行での事故発生率は2.4% |
誰が補償するのか
この場合、現場のウエイトレスに責任があるのは勿論、彼女を使っているレストランが責任を負うのは当然である。しかし、海外にいる外国人や外国企業に対して損害賠償を請求するのは、事実上極めて困難である。レストランが日本に支店でもない限り、日本には訴訟管轄がない。そのため、訴訟は現地の裁判所に起こすしかないが、その手間と暇を考えると、事実上不可能といわざるをえない。
こうした予測不能の事態は、旅行者の旅行保険で対応してもらうことが、現実的な対処方法となる。ちなみに、入院した場合はもちろん、通院日数が3日以上となれば、特別補償の対象となり、通院見舞金は受け取れる。
だが、この金額では実際にかかった治療費の一部しか補填されないだろう。こうした観点からも、旅行者には旅行傷害保険に入ってもらうことが不可避だ。
こうした予測不能の事態は、旅行者の旅行保険で対応してもらうことが、現実的な対処方法となる。ちなみに、入院した場合はもちろん、通院日数が3日以上となれば、特別補償の対象となり、通院見舞金は受け取れる。
だが、この金額では実際にかかった治療費の一部しか補填されないだろう。こうした観点からも、旅行者には旅行傷害保険に入ってもらうことが不可避だ。

[ 国際旅行法学会(IFTTA) 会員、東京弁護士会所属]
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