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「FSA」トップに聞く:早稲田大学アカデミックソリューション社長の大谷氏

2019年04月24日(水) 21時00分

大谷氏  OTAの躍進や相次ぐ他業種からの参入などにより、業界環境の変化が進む現在の旅行業界。とはいえそのような状況でも、痒い所に手が届く高品質なサービスで利用者の信頼を勝ち取り、販売力を維持・拡大している旅行会社は多い。本誌ではそのような会社を「フルサービスエージェント(FSA)」と定義し、その力や役割を業界の内外に紹介すべく、今年からインタビュー記事の掲載を開始した(下記関連記事)。

 第5回は早稲田大学のグループ会社として同大学の運営をさまざまな面で支援し、そのなかの「国際交流支援事業」において教職員の海外校務出張の手配を取り扱っている早稲田大学アカデミックソリューションを紹介する。代表取締役社長の大谷俊昭氏とマーケティング室の室長を務める江口俊之氏に、旅行業に関する取り組みや今後の成長戦略について聞いた。(聞き手:トラベルビジョン代表取締役会長 岡田直樹)

-まずは早稲田大学アカデミックソリューションの歴史をお聞かせください

大谷俊昭氏(以下敬称略) 早稲田大学はさまざまな役割を担う関連会社を持っているが、そのうち旅行業を含めた、大学での教育・研究・語学教育などの支援サービスを提供する会社が合併し、2004年に早稲田大学アカデミックソリューションの前身となる会社を設立した。その後、14年に早稲田大学グループホールディングス傘下の複数の事業会社が統合されたのに伴い、現在の形態となり、社名も現在のものに変更した。

 旅行部門は04年の合併時に第3種旅行業を取得して立ち上げ、14年の統合の際には第2種に、18年1月には第1種に変更した。大学の関連会社で第1種を取得しているケースは他になく、これにより他の国内大学に向けても、短期留学プログラムなどを旅行商品として独自に 企画・造成するなど、一貫して業務を手掛けられるようになった。

-旅行部門の主な事業内容と規模を教えてください

大谷 旅行部門の主な仕事は教職員の海外出張の手配で、校務出張では当社を使う決まりとなっている。校務以外の研修や研究に関する出張などについては、必ずしも当社を利用しなくてもいいが、実際には使われるケースが多い。国内出張に関しては、他社を利用して手配・購入するケースも多いようだ。そのほか海外出張に加えて、先ほど説明した学生の留学プログラムも大きな柱の1つになっている。

 直近の売上高は44億円で、旅行部門については年間の取扱額が8億円に上る。 社員数は313名で、そのうち旅行部門には10名が在籍している。

-校務以外の旅行でも選ばれるための工夫はありますか

大谷氏 大谷 渡航にはフライトの遅延やキャンセルなどのトラブルがつきものだが、さまざまな状況に24時間対応できる体制を構築している。また、顧客である教職員の渡航目的・内容や好みなどを把握した上で、常に最適な提案をできるようにしている。

 例えば、忙しい教職員からは「今度は○○○へ行くので宜しく」といった漠然とした依頼も多いが、限られた情報をもとに、飛行機の座席はどのクラスまでを使えるか、出張規定の範囲、好みの内容、ホテルはどこが最適かなどを提案し、さらにはビザ取得や渡航認証の要否、訪問国に応じた旅券の残存期間規定なども確認・管理し、万全の手配をする。出張する側は手間もかからず安心できる。

江口俊之氏(以下敬称略) また、例えば悪天候でフライトに大幅に遅延、機材変更、キャンセルなどがあった場合も、航空会社と振替便について交渉し、出張者に最善の誘導方法を検討できます。そのほか、大学総長や理事を始めとするVIPに関しては、VIPサービスに係る事前登録、ラウンジでの対応、貴賓室の利用有無、お好みの食事や飲み物、機内での対応といった細かな情報も航空会社の営業担当者と連携して提供します。こういった対応は、当社の旅行部門でPNRを作成できるからこそ可能になっています。

-最近のOTAの台頭をどのように見ていますか

大谷 観光のための旅行ならOTAで十分だと思うが、業務渡航となるとどうだろうか。例えばホテル選びも「安ければいい」というわけにはいかず、ロケーションやホテルの特徴などが重要な選択の要素となる。それらをすべて自分で調べて手配するのはかなり面倒なことなので、「ちょっと安い」というだけではOTAを使うメリットはないと思う。

江口 過去にOTAと連携したシステムを導入して、教職員が自分で予約できるようにしたことがありますが、利用件数はそれほど伸びませんでした。やはり面倒さと、すべて自分の判断で選択しなくてはならない責任の重さがネックになったようです。

-出張手配の手数料はどのように設定していますか

大谷 航空券の場合は、エコノミーやビジネスといったクラス別に手数料額を定めている。実際には、手数料だけで旅行部門としての利益を確保することは難しい部分もあるが、当社には早稲田大学に貢献する役割もあるので、必ずしも単体での利益ばかりを追求しているわけではない。ただし当社が早稲田大学に法人契約レートを利用することにより、どれだけの経費削減効果をもたらしているかについてはよく理解してもらう必要があるので、貢献度の可視化には力を入れている。

江口 例えば当社が航空会社と交渉して得た法人契約レートの割引に相当する分は、大学への出張費用削減のためにすべて還元しています。あわせてどの教職員がどこに出張し、費用はいくらだったか、そのうち航空会社から得た割引に相当する分はいくらだったか、といったことはすべてを請求書上でもデータ上でも分かるようにしています。

 さらにそれを年度単位でまとめ、「これだけの経費削減効果があった」という事実を大学に報告し、当社の存在意義を理解していただくようにしています。

-それはプロジェクト単位で利益まで可視化できないと難しいことで、旅行会社であれば非常に珍しい、優れた仕組みと言えるのではないでしょうか

江口氏 大谷 当社では旅行部門以外にもさまざまな業務を担っていることもあり、「プロジェクト単位で利益まで見えるのが当然」と考えている。旅行会社としての常識というよりは、一般企業の常識に基づいた取り組みだと思う。

江口 旅行業界では「損して得取れ」の発想で、「投資しても最終的に儲かればいい」という考えが一般的となっているように思います。しかし当社では、プロジェクト単位で売り上げから諸々の経費、人件費、さらには全社経費を引いた最終利益がいくらかというところまでしっかり算出します。1つひとつの仕事がすべて、黒字か赤字かなのかを把握できるということです。

-今後の成長戦略について教えて下さい

大谷 早稲田大学での豊富な経験をもとに、当社で蓄積してきた知見により、サービスの提供対象を他大学へと広げていきたい。早稲田は国際化展開や業務自動化の分野などでは先進的で、優れたノウハウを持っているし、ブランド力や信頼性もある。早稲田大学で当社が培ったノウハウを知りたいという他大学は少なくないと思うので、他大学にも広げていくことが、当社のミッションでもある「大学への貢献」「社会への貢献」へとつながっていくと考える。

 一方、私立大学同士は、助け合っていくことも必要だ。例えば当社が航空会社と締結している法人契約の手法を他大学にも提供することができれば、双方にメリットがある。

江口 マーケティング室では、急速に進むグローバル化を見据えて「課題設定型」のコンセプトを取り入れた海外フィールドスタディプログラムを企画・開発し、商品化を進めています。この研修プログラムでは、発展途上国を中心にそれぞれの国について教育的要素の強いテーマを課題として設定し、学生は現地でその課題と向き合い、仲間とチームビルディングに取り組み、行動に移して、課題と向き合った成果を現地の方々に残します。これらの一連のプロセスを体験させることで、これから新しい時代を生きていく若者に「自分で考え行動できる人」へと成長していただくことを目標とした、大学関連会社ならではの教育的視点と内容で提供するプログラムです。

 当社ではこの海外フィールドスタディプログラムを単位化が可能な時間数と内容にまで仕上げて商品化し、5月中旬には詳細を発表する予定です。海外派遣先はブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ベトナムなどで、航空会社や現地の教育機関、在外公館などの協力も取り付けてプログラムを実現させていきます。

大谷 他大学にも事業を展開する方針は旅行部門に限ったことではなく、すでに実施している分野もあり、人材育成部門を中心に約40大学と取引がある。旅行部門でも同様に展開を拡大していきたい。

-ありがとうございました