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世界屈指の日本パスポート、保有率が超低空飛行の危機-官民で支援

  • LCCのピーチは取得支援、第2弾キャンペーンも検討
  • 低水準からさらに3年連続低下、海外旅行回復の足かせに

世界屈指の有用性を誇る日本のパスポートだが、コロナ禍の影響もあって国民の6人に1人程度しか保有していないという事態となっている。危機感を強める旅行業界や地方自治体はパスポート取得を促進するために費用の支援に乗り出している。

  ANAホールディングス傘下の格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションはパスポートを新規取得・更新した人に同社の航空券購入などに使える5000円分のポイントを抽選でプレゼントするキャンペーンを12月22日まで実施している。同社でマーケティング企画を担当する南谷雅氏は、これまで予想を上回る応募が来ており、第2弾のキャンペーンについても検討中だと明かす。

  南谷氏は、航空会社などが海外旅行の魅力をいくら伝えても、「いざ行こうというときにパスポートがない。取得するにも時間がかかり、お金もかかる」という問題があり、その部分で消費者の背中を後押しするために今回の企画が立ち上がったと説明した。

  ビザを事前に取得せずに渡航が可能な国・地域の数に基づき、英コンサルティング会社ヘンリー・アンド・パートナーズがとりまとめた「グローバル・パスポート・ランキング」で日本は昨年まで5年連続で首位を獲得しており、現在は2位に位置している。ただ、保有率は3年連続で下がり足元では17.8%となっており、海外旅行回復の足かせとなる恐れがある。

パスポート保有率は低下傾向

出所:日本旅行業協会

  もっとも、日本人のパスポート保有率は元々他の主要国と比べると低かった面もある。米国の国務省領事局のデータによると、2023年時点で人口の約半分に相当する1.6億人が同国のパスポートを保有している。英国の21年国勢調査は、同国在住者の86.5%がパスポートを持っていたとしている。

  JTB総合研究所の早野陽子主席研究員は、観光環境が整っている日本では国内旅行でもかなり楽しめるため、海外旅行に「ある程度行かなくても満足してしまう」ことがパスポート保有率が低い要因との見方を示した。

  9月までパスポート取得費用の支援キャンペーンを行っていた日本旅行業協会(JATA)の広報担当者は、コロナ禍に加え、世界的な物価高と円安による旅行費用の上昇やウクライナ戦争など不安定な世界情勢の影響で海外旅行の需要が冷え込んでいることが近年のパスポート取得率の低下の要因となっている可能性があると話した。海外旅行に行く日本人の数が低水準にとどまる中、協会としても引き続き需要喚起策をやっていく必要があると考えているという。

出国日本人数は依然低水準

回復が先行する訪日客は10月にコロナ前を初めて上回る

出所:日本政府観光局

  その他の企業や団体なども動いている。旅行大手のJTBはパスポート取得費用分のポイントを提供するキャンペーンを行っているほか、自治体でも宮崎県富山県などがパスポート取得費用の全額あるいは一部を支援している。

  JTB総研の早野氏は、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの際にも見られたように、感染症の収束後における海外旅行需要の回復において日本は他の国に比べ遅い傾向があるが、「いずれ回復してくるだろう」と語った。その上で、今後はパスポート取得など海外旅行に行くための環境を整える支援のほか、海外旅行の機運を高めるような世論への働きかけが必要との見方を示した。

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