「地球の歩き方」コラボ続々 コロナ禍で見つけた鉱脈
海外旅行ガイドブックの代名詞「地球の歩き方」から、国内ガイドや漫画の解説ブックなど"変わり種"が次々と生まれている。その背景にあったのが、事業売却。新型コロナウイルス禍まっただ中の2021年1月、学研ホールディングス(HD)傘下で新会社として再出発。社員の意識が大きく変わった。
『ムー 〜異世界(パラレルワールド)の歩き方〜』『JOJO ジョジョの奇妙な冒険』『埼玉』『愛知』――。ここ2年、海外旅行ガイドブックの定番「地球の歩き方」のラインアップがまさに「奇妙」になっている。古代遺跡やミステリースポットを取り上げるムーとのコラボは累計13万部、荒木飛呂彦氏の人気漫画とコラボしたジョジョは累計17万部の大ヒット。国内ガイドブックも11種類に増えた。
1979年に創刊された地球の歩き方は40年以上、ダイヤモンド社(東京・渋谷)の子会社ダイヤモンド・ビッグ社(同)が発行してきた。しかし新型コロナウイルス禍で海外旅行需要が消失。事業の維持が難しいと判断した同社は、2021年1月1日付で学研ホールディングス(HD)の子会社に事業譲渡した。
学研HDが設立した新会社「地球の歩き方」に移籍した約30人の社員が21年1月5日、学研の本社ビル内の新オフィスに顔をそろえた。新たなトップになったのは、学研出身の新井邦弘社長。最初の挨拶では、この苦境はいずれ底を打つと鼓舞し、こう続けた。「あなた方は、学研に吸収合併されたのではなくて、地球の歩き方として独立したのです。ブランド価値、強みや誇りは何なのか、じっくり考えてみませんか」と。
ダイヤモンド・ビッグ社時代は、ガイドブックの改訂版を出すことに追われ、ルーティンワークになっていた。しかし幸か不幸か、コロナ禍で手元には仕事がなかった。改訂版を出せる状況ではなかった。社員が分科会をつくり、議論を重ねた。
取引先などから「地球の歩き方にはお世話になったんです」と声を掛けられることが多いという新井氏。それはなぜなのか。観光案内だけでなく、マナーや文化、さらには歴史までを網羅した地球の歩き方の価値は、新たな世界に出合いたい人々を、正確な情報でサポートすること――。そう定義すると、対象は必ずしも海外旅行に限らないことに気づく。コロナ禍が終息しても、新たなパンデミック(世界的大流行)が起こるかもしれない。海外旅行ガイドブックの一本足打法ではなく、国内や他コンテンツとのコラボ、グッズや食品といったライセンス商品の展開など、ブランドを最大限に活用したビジネスモデルに踏み出した。
現場の社員からの提案が開花
そのきっかけとなったムーとのコラボは、新井氏が以前「月刊ムー」の編集部にいた縁で生まれたが、ジョジョとのコラボは現場の社員からの提案だった。「聞いてみれば、ダイヤモンド・ビッグ社時代から提案していたが、他に売れる企画があるのにわざわざやる必要はないという反応だったという」(新井氏)
情報を地域別ではなく、グルメなどテーマごとに再構成した「旅の図鑑」シリーズは、100以上のアイデアが現場の社員から出され、30冊が形になった。「新企画を出す勇気が身についてきた」と新井氏は社員たちの変化を肌で感じている。
それは、地球の歩き方という小さな組織になったことで、会社は自分たちで支えるしかないという意識が芽生えたからだ。そして、どん底を乗り越えてきた達成感と同時に、2度と同じ目には遭いたくないという思いも社員の共通認識。だからこそ変化を恐れず、チャレンジし続けていかなければならないという意識は強い。新井社長は「出版業にはこだわっていない。10年後も『地球の歩き方にはお世話になったんです』と言ってもらえるような関係性を維持していくのが大切」と先を見据えている。
(日経ビジネス 佐藤嘉彦)
[日経ビジネス電子版 2023年11月9日の記事を再構成]
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
関連リンク
企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。
関連企業・業界