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海外医療通信 2019年9月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2019年9月25日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2019年9月号          東京医科大学病院 渡航者医療センター

 

・海外感染症流行情報 2019年9月

(1)アジア:デング熱輸入患者数が昨年の3倍近くに増加

日本の国立感染症研究所の報告によれば、今年は9月8日までにデング熱輸入患者数が307例になり、昨年同期(119例)に比べて3倍近くに増えています(IDWR 2019-36週)。これはアジア各地でデング熱の患者発生が例年になく増えているためです。マレーシアでは8月末までに8万5000人、フィリピンでは20万人にのぼっており、いずれも昨年の2倍以上の数です(WHO西太平洋 2019-8-29)。シンガポールも9月中旬までに患者数が1万人を越え、タイも5万人以上になっています。(Outbreak news today 2019-9-16、18)。今年はネパールでの患者数も多く、8月中旬から9月上旬までに首都カトマンズなどで5000人の患者が報告されました(厚生労働省検疫所 2019-9-18)。アジアでのデング熱の流行は今後も暫く続くため、滞在中は蚊に刺されない対策をとるようにしてください。

(2)アジア:フィリピンでポリオ患者が発生

フィリピンで19年ぶりとなるポリオ患者が2例確認されました(Outbreak news today 2019-9-19, 20)。1例目はダバオ近郊の南ラナオ州に住む3歳児で、2例目はマニラ南部のラグナ州に住む5歳児です。いずれもポリオワクチンに由来するウイルスの感染と診断されています。アジア各地ではポリオ根絶のため経口生ワクチンを用いていますが、ワクチン接種を受けた人から周囲の人への感染が起こることがあり、これが最近になりアジア各地でポリオ患者が発生している原因と考えられています。

(3)オセアニア:ニュージーランドで麻疹が流行

ニュージーランドで麻疹の流行が発生しています(厚生労働省検疫所 2019-9-6)。今年1月から9月中旬までに全土で1419人の患者が確認されており、このうち1180人がオークランド周辺からの報告でした(ニュージーランド保健省 2019-9-23)。オークランドは日本から観光で訪れる人も多く、短期の滞在でも麻疹ワクチンの接種を検討ください。

(4)ヨーロッパ:ハンタウイルス感染症が増加

今年は中央ヨーロッパ諸国でハンタウイルス感染症の患者が増加しています。オーストリアではこれまでに200人の患者が確認されており、これは年間平均患者数(80人前後)を大きく上回ります(ヨーロッパCDC 2019-8-23)。スロベニアでは220人、クロアチアでは149人といずれも例年より増えています。ハンタウイルス感染症はネズミの尿などに接触して感染する病気で、ヨーロッパのウイルスは発熱とともに腎障害をおこし、致死率は3~15%になります。ヨーロッパに滞在中は森や公園などでネズミに接しないように注意しましょう。

(5)アフリカ:コンゴのエボラ熱流行状況

コンゴ民主共和国で発生しているエボラ熱の流行は9月も同様な状況が続いています。最近1週間の患者発生数は50人前後で、やや減少傾向にあるようですが、予断を許しません(WHO Outbreak news 2019-9-19)。なお、WHOは9月上旬にタンザニアのダルエス・サラムで34歳の女性医療従事者が熱性疾患で死亡したと報じました(WHO Outbreak news 2019-9-21、ProMED 2019-9-18))。この女性は直前までウガンダの病院で働いていたためエボラ熱の感染も疑われましたが、タンザニアの保健当局はエボラ熱が否定されたことをWHOに報告しています。

(6)南米:ブラジルで麻疹が流行

ブラジルでは今年の6月~8月に2万人の麻疹疑い患者が発生しており、このうち2753人が麻疹と診断されています(Outbreak news today 2019-9-5)。この確定患者の9割以上にあたる2700人はサンパウロ州での発生でした。ブラジルのサンパウロ州に滞在する際には麻疹ワクチンの接種を検討ください。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年8月12日~2019年9月8日)

最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢9例、腸管出血性大腸感染症18例、腸チフス・パラチフス5例、アメーバ赤痢5例、ジアルジア2例、A型肝炎2例、E型肝炎2例が報告されています。細菌性赤痢は前月(1例)から増加しており、ミャンマーが3例と多くなっています。腸管出血性大腸感染症は半分の9例が韓国での感染でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は100例で、前月(26例)より4倍近くに急増しています。感染国はフィリピン(38例)とカンボジア(19例)が多く、インドやネパールなど南アジアでの感染も17例と多くなっています。今年のデング熱累積患者数は307例で、昨年同期(119例)に比べて3倍近くに増えています。チクングニア熱は9例で、感染国はミャンマー(6例)が前月と同様に多くなっています。ジカウイルス感染症も1例報告されており、フィリピンでの感染でした。マラリアは7例で、5例がアフリカでの感染でした。

(3)その他:麻疹が6例で、感染国はアジアが3例(フィリピン、マレーシア、ベトナム)、ロシア、ブラジルが各1例でした。風疹は1例で、タイでの感染でした。レプトスピラ症がラオスとペルーで1例ずつ報告されています。川や湖など淡水に触れることで感染する病気です。

 

・今月の海外医療トピックス

海外渡航と便秘 

先日、横浜の海外移住資料館へ行きました。入館無料にもかかわらず、貴重な資料が数多く展示され、見ごたえある立派な施設に驚きました。展示物の中で印象に残ったものの一つが、1931年にブラジルから嫁探しに帰国した男性と結婚し、現地に渡航した女性の携行品です。夫に荷物を極力少なくするように言われ荷造りしたという行李(こうり)の中をみると、シッカロール缶の横に浣腸器が入っていました。展示の解説には「子供用浣腸器が大変役立った」というコメントがありました。海外渡航中の便秘は決して侮れません。便秘を放っておくと、強い腹痛や嘔吐、痔や脱肛、まれに潰瘍ができて穿孔することもあります。環境の変化や仕事によるストレス、睡眠不足、運動不足、食生活の変化等によって便秘は起こりやすくなりますから、渡航中は特に注意が必要です。現代において、浣腸器の必要はないと思いますが、携帯医薬品の中に下剤や整腸剤を忘れず加えておくことをお勧めします。(医師 栗田直) 参考;JICA海外移住資料館 https://www.jica.go.jp/jomm/

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメデイカルサイエンス研究会主催)

今回の研修会は下記の日程で開催されます。今回は「成人の麻疹風疹ワクチンの接種」や「日本渡航医学会のワクチンガイドライン」などに関する講演があります。

・日時:2019年10月5日(土)午後1時20分~午後5時  ・会場:国立国際医療研究センター

・プログラムなど:バイオメデイカルサイエンス研究会のホームページをご覧ください。https://www.npo-bmsa.org/研修会-セミナー情報/トラベラーズワクチンフォーラム/