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海外医療通信 2019年4月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2019年4月25日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2019年4月号   東京医科大学病院 渡航者医療センター


・海外感染症流行情報 2019年4月

(1)アジア:東南アジアでのデング熱流行状況

今年は東南アジア各地でデング熱の患者数が昨年より増加しています。マレーシアでは4月上旬までの患者数が3万8000人にのぼっており、首都クアラルンプール周辺での発生が多くなっています(Outbreak News Today 2019-4-7)。シンガポールでは3月下旬までに、昨年同期の4倍にあたる2000人の患者が確認されました(ProMED 2019-4-17)。フィリピンの患者数も3月下旬までに5万5000人にのぼっており、昨年同期の1.8倍の数です(Outbreak News Today 2019-4-12)。東南アジアはこれから本格的な雨季を迎えるため、デング熱への十分な対策が必要です。

(2)アジア:アジアでのジカ熱流行状況

ヨーロッパCDCがアジア各地のジカ熱の流行状況を報告しています(ECDC 2019-4-9)。インドでは2018年末に北西部のラジャスタン州やマディヤ・プラデーシュ州で約280人のジカ熱患者が確認されました。タイでは2018年に560人、2019年は3月中旬までに48人の患者が確認されています。シンガポールでは2018年、2019年ともに患者数は1人と少なくなっています。

(3)アフリカ: モザンビークでコレラ流行が発生

アフリカ南部のモザンビークで3月中旬、サイクロンによる大規模な水害がおこりました。この影響でコレラの流行が発生しており、4月中旬までに患者数は5000人以上にのぼっています(ProMED 2019-4-18)。米国CDCは「同国への不要不急の旅行を避けるように」との勧告を出しています(米国CDC 2019-4-5)。

(4)アフリカ: コンゴ民主共和国でのエボラ熱流行状況

コンゴ民主共和国の北東部で発生しているエボラ熱の流行は4月も続いています。4月中旬までの累積患者数は1290人(死亡833人)で、最近3週間の新規患者数は200人以上にのぼっており、3月に比べて増加傾向にあります(WHO Outbreak news 2019-4-18)。WHOは4月12日に緊急委員会を招集し、今回のエボラ熱の流行状況を検討しましたが、2014年、西アフリカの流行時に発せられた「公衆衛生上の緊急事態(PHEIC))には至っていないとの結論でした。

(5)北米:米国で麻疹患者が多発

米国では今年になり全土で麻疹患者が増加しており、4月中旬までに患者数は626人にのぼっています(米国CDC 2019-4-22)。ニューヨーク市ではブルックリンなどで患者が多発しており、4月9日に公衆衛生上の緊急事態が宣言されました(外務省海外安全ホームページ 2019-4-10)。今回の米国での麻疹流行はイスラエルやフィリピンなどからの輸入例が発端になっているようです。米国に滞在する際には麻疹ワクチンの接種を検討してください。

(6)南米:ブラジルの蚊媒介感染症(黄熱、デング熱、ジカ熱)

ブラジルでは毎年12月~5月に黄熱の流行が発生しています。過去2回の流行シーズンでは患者数の大幅な増加がみられましたが、今シーズン(2018年7月~2019年3月)は患者数が75人と少なくなっています(WHO Outbreak news 2019-4-18)。ただし、今シーズンも患者の多くが人口密集地のサンパウロ州で発生しており、引き続き警戒が必要です。デング熱の患者数は昨年より増加しており、今年は4月上旬までに43万人にのぼっています(WHO-America 2019-14週)。ジカ熱は2018年に1万9000人の患者が発生しましたが、今年は2月末までに2000人とやや減少傾向にあります(ヨーロッパCDC 2019-4-9)。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年3月4日~2019年4月7日)

最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢5例、腸管出血性大腸感染症6例、腸チフス・パラチフス5例、アメーバ赤痢8例、A型肝炎5例、E型肝炎3例が報告されています。腸チフス・パラチフスは全例が南アジア(インド、ミャンマーなど)での感染例でした。

ブルセラ症の患者が1例発生しました。この病気はブルセラ菌でおこる熱性疾患で、感染動物の乳製品や肉を食べることなどで感染します。今回の症例は中国で羊の肉を食べて感染したと報告されています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は26例で、感染国はインドネシア(8例)、フィリピン、タイ、スリランカ(各3例)が多くなっています。今年のデング熱累積患者数は78例で、昨年同期(27例)に比べて倍以上に増えています。マラリアは5例で、アフリカ(ケニア、カメルーン、ガーナ)での感染が4例、ペルーでの感染が1例でした。チクングニア熱はインドネシアで感染した1例が報告されています。

(3)その他:麻疹が22例と前月(15例)より増えています。感染国はフィリピンが12例と半数以上を占めました。風疹は8例で、中国(4例)、フィリピン(3例)での感染が多くなっています。

・今月の海外医療トピックス

中南米移民と外国人労働者

当センターではブラジルなど中南米への渡航前受診者が増えています。渡航目的はビジネスや観光が圧倒的に多いのですが、かつて移民として滞在していた人が「現地に残った親族や友人に会いたい」と渡航することもあります。中南米移民は1886年のアルゼンチン移民に始まり、戦中に一時中断し、1952年に再開されました。再開後、1994年の移住者送出業務終了までの41年間に約6万7千人の日本人が中南米に移住しました。劣悪な土地、暑く厳しい気候、文化の違い、言葉の通じぬ異国で大変な苦労をされ、マラリアやデング熱などの熱帯感染症で命を失った方も沢山いたはずです。

かつて、日本は労働者を海外に送り出す国でした。時代は変わり、現代の日本は労働者不足に悩み、外国人労働者を受け入れる立場にあります。これを取りまく多くの問題が取り沙汰されていますが、移民として中南米に渡った方が、日本で働く外国人労働者をどう見ておられるのか。機会があればお聞きしたいと思っています。(医師 栗田直) 

参考:海外移住統計(昭和27年度~平成5年度)国際協力事業団

・渡航者医療センターからのお知らせ

7月から新病院での診療開始

東京医科大学病院は7月から隣接する新病院での診療が始まります。渡航者医療センターは新病院の8階に設置され、診療スペースは現在より広くなります。9月には新しい渡航者医療センターのご案内を含めた実用セミナーの開催を予定しております。詳細は本メールマガジンでご案内いたします。