海外医療通信 2018年9月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2018年9月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター

・海外感染症流行情報 2018年9月号

(1)韓国でMERS患者が発生

韓国で中東から帰国した男性が中東呼吸器症候群(MERS)にかかっていることが明らかになりました(WHO Disease outbreak news 2018-9-12)。この患者はクウェートに3週間滞在し、9月7日、仁川空港に到着しました。肺炎の症状があったためソウル市内の病院に運ばれ、そこで診断がつきました。9月25日の時点で二次感染者は出ていません。韓国では2015年に186人の患者が発生するMERSの国内流行がありましたが、今回は早期に対応がされており、流行は拡大していない模様です。

(2)パプア・ニューギニアでポリオ患者発生

パプア・ニューギニアの首都ポートモレスビー近郊で、男児(6歳)のポリオ患者が確認されました(英国Fit For Travel 2018-9-11)。パプア・ニューギニアでは5月以来、ポリオ患者の発生が報告されていますが、首都近郊での患者確認は初めてです。日本の外務省は、同国を含めポリオ発生国に滞在する者に、ポリオワクチンの追加接種を推奨しています(外務省海外安全ホームページ 2018-9-3)。

(3)コンゴ民主共和国でのエボラ熱流行

コンゴ民主共和国・北東部で8月に発生していたエボラ熱の流行は、9月も続いています(WHO Disease outbreak news 2018-9-21)。新規患者の数は9月になり少なくなっていますが、ウガンダ国境近くの大都市Butembo近郊でも複数の患者が確認されています。9月中旬までの累積患者数は142人で、このうち97人が死亡しました。

(4)アフリカ各地でコレラの流行が発生

アフリカ北部のアルジェリアで8月初旬からコレラが流行しています(WHO Disease outbreak news 2018-9-14)。首都アルジェなどを中心に9月上旬までに200人以上の患者(疑いを含む)が確認されました。同国では20年ぶりの流行になります。アフリカ南部のジンバブエでも、9月から首都ハラレなどでコレラが流行しています(WHO Disease outbreak news 2018-9-20)。9月中旬までに患者数は3,600人(疑いを含む)にのぼり、32人が死亡しました。コレラには経口ワクチンがあります。日本では未承認ですが、一部のトラベルクリニックではこれを輸入し、希望者に接種しています。流行地域に滞在する際には接種を検討してください。

(5)ヨーロッパで西ナイル熱が流行

今年の夏はヨーロッパ各地で西ナイル熱の流行が発生しています(ヨーロッパCDC 2018-9-21)。9月20日までにEU諸国の患者数は1,134人にのぼっており、昨年の3倍以上の数です。とくにイタリアで453人、ギリシャで224人と患者数が多くなっています。西ナイル熱はイエカに媒介されるウイルス性疾患で、一部の患者は脳炎などをおこし、死亡することもあります。有効なワクチンや治療薬はなく、予防には蚊に刺されない対策をとります。イエカは夜間吸血する習性があるため、流行地域で夜間外出する際には、皮膚を露出しない服装をしたり、昆虫忌避剤を使用してください。

(6)米国・ニューヨークの空港で呼吸器症状の患者が多発

ニューヨークのジョン・F・ケネディー空港で、9月5日にサウジアラビア・メッカから到着した飛行機の乗客・乗員約100人に、咳や嘔吐などの症状がみられました(ProMED 2018-9-6)。このうち10人はインフルエンザと診断されましましたが、残りの乗客・乗員は心理的な影響で症状をおこしていたようです。メッカでは8月24日まで大巡礼が行われており、インフルエンザの流行がみられていました。


・日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年8月13日~2018年9月2日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢10例、腸管出血性大腸菌感染症5例、腸チフス・パラチフス2例、アメーバ赤痢5例、A型肝炎3例、ジアルジア症1例が報告されています。細菌性赤痢は3例が東欧のベラルーシでの感染でした。

(2)蚊が媒介する感染症:デング熱は22例で、前月(10例)より大幅に増えました。このうち半数の11例がフィリピンでの感染でした。チクングニア熱は2例で、タイとフィリピンでの感染でした。マラリアは5例で、アフリカでの感染が3例、アジア(パキスタン、韓国)が2例でした。韓国では北部の江原道、京畿道で夏に三日熱マラリアの流行がおきます。

(3)その他:麻疹が2例(フィリピンとベトナムで感染)、百日咳が1例(フィリピンで感染)報告されています。


・今月の海外医療トピックス

旅客の「臭い」で緊急着陸

今年5月、オランダからスペインへ向かった旅客機が、「臭い」が原因で緊急着陸しました。ある乗客の「臭い」で、周囲の乗客が嘔吐や失神をする事態に陥ったそうです。

https://metro.co.uk/2018/05/31/man-smelled-bad-flight-cabin-crew-tried-quarantine-plane-diverted-7595559/

飛行中の機内は2分毎に換気され、1回の換気には、機内と機外の空気が半分ずつ利用されます。2009年の新型インフルエンザ流行以降、多くの機体がへパフィルターを搭載しており、機内の換気は皆さんが想像するより良いものです。 しかし、飛行中は座席とトイレの移動以外、ほぼ自由がききません。開かない窓に精神的な「閉塞感」を感じる人もいるはずです。「臭い」や「閉塞感」に対する閾値は人それぞれですが、それらから起こる健康被害の拡大が懸念されるため、機長は緊急着陸を判断したのです。 「臭い」から逃れられない「閉塞感」が、旅客の健康を害する状況に陥らせたわけです。今後、航空業界でもこうした問題への対応が必要になることでしょう。 (医師 栗田 直)


・渡航者医療センターからのお知らせ

(1)第21回渡航医学実用セミナー「海外勤務者の健康管理対策~実務編」 (当センター、海外邦人医療基金共催)

今回は「海外出張者の健康管理」の具体的対応策について、日本渡航医学会産業保健委員会から報告します。まだ、席が少々残っておりますので、ご興味のある方は是非、ご参加ください。

・日時:2018年9月26日(水) 午後2時00分 ~ 午後4時30分

・会場:東京医科大学病院6階 臨床講堂 ・対象:職種は問いません ・参加費:無料 ・定員:約200名

・プログラム:下記の当センターHPをご参照ください。http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html

・申込方法:下記の海外邦人医療基金のホームページからお申込みください。 http://www.jomf.or.jp/osirase/notice.html#2018/08/30_00          

(2)ジャムズネット東京勉強会(ジャムズネット東京主催)

今回の勉強会は「ドイツの芸術療法」と「スイスの高齢者ケア」をテーマに下記の日程で開催します。ジャムズネット東京会員が対象の勉強会ですが、会員以外の方も参加できます。

・日時:2018年10月11日(木)午後6時~午後7時20分 

・会場:東京医科大学病院6階 第3会議室 

・詳細はジャムズネット東京のホームページをご覧ください。https://www.jamsnettokyo.org/