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インタビュー:「ツアコンオブザイヤー2017」大賞のHIS中田氏

「一時しのぎ、10回でやめる」からプロへ
添乗力とは「実践力」と「経験値」

 「ツアーコンダクター・オブ・イヤー2017」の大賞にあたる「国土交通大臣賞」に選ばれたエイチ・アイ・エス(HIS)関東業務事業部ヨーロッパ・南米・クルーズ旅行事業グループの中田啓司氏は本誌のインタビューに応え、受賞の喜びや添乗に対する考え、今後の抱負などについて語った。中田氏は15年にHISに入社するまでは添乗員派遣会社に属し、トータルで22年間に及ぶ業務において、添乗日数は約3900日、訪れた国は143ヶ国に上る。日本旅行業協会(JATA)の「エリア・スペシャリスト」については唯一、全8エリアのスペシャリストに認定されている。


-添乗員を志したきっかけを教えてください

中田啓司氏(以下敬称略) もともとバックパッカーとして海外を周っていました。大学時代にスペイン語を学んでいたこともあり、卒業後にしばらく働いた後、スペインに住もうと思って滞在しましたが、滞在費がなくなり日本に戻ってきました。現地で知り合った添乗員の友人に誘われて、まずは一時しのぎの仕事として添乗員になりました。

 最初は10回添乗したら辞めようと思っていましたが、自分の不注意からお客様の航空券を自腹で再発行しなければならない羽目になったことで、「元を取るまではやめられない」と思い、しばらく続けました。本格的に添乗員の仕事を頑張ろうと思ったきっかけは、先輩方の姿を見て「自分よりもさらに先の世界を見ている」と感じ、悔しいと思ったこと。先輩方には「添乗員で食べていこう」というプロ意識があり、身につけている国際的な感覚や知識、語学などでプロとアマチュアの違いを感じ、追いつきたいと思いました。

 添乗業務の魅力は、1回ごとに完結する仕事であること。その結果が良くも悪くもすべて自分に返ってくるので、やりがいを感じています。音楽や歴史など、旅につながるさまざまなことを学び、活かすことも可能です。人とコミュニケーションを取ることが好き、ということも添乗業務を続ける理由となっています。

 添乗中はできるだけ早く自分のことをわかってもらえるよう、細かく自己紹介をしています。団体の中に「和」を作ることを心がけており、食事中には皆が参加できる共通の話題を選ぶなど、工夫しながらコミュニケーションをとっています。


-テロ事件や自然災害など、添乗中に予期せぬ出来事に巻き込まれることがあると思いますが

中田 十数年添乗員を務めていれば、そのような事態にあったことがない人はいないと思います。お客様が慌ててしまわないよう、まずは添乗員が冷静さを示すことが、プロ意識ではないでしょうか。

 ツアーで乗車していたマチュピチュ行きの列車が崖崩れにあい、途中で止まった事がありました。マチュピチュまで約1キロメートル強を歩くしかなく、お客様には状況を冷静に説明して落ち着いてもらった上で、歩いてもらうよう説得しました。マチュピチュを観光している間は、最新の情報を細かくチェックしました。当時は今と違って添乗員に携帯電話が支給されておらず、旅行会社との連絡はほとんどとれなかったので、現地ガイドと相談してランドオペレーターとやりとりしました。結局、帰りには電車が復旧し、無事に次の行き先に移動できました。

 また、トルコで1度、滞在中の町の通りで爆発事件が起きたことがありました。このような事件の場合、テレビのニュースで現場だけ見ると、戦争が起こったような惨状が報じられていますが、実際にはホテルの外を見ると住民は普段通りに生活しています。このため、お客様も普通に出かけてしまう可能性がありますが、現地ではお客様に事情を説明し、できるだけホテルから出ないようしっかりと呼びかけました。