海外医療通信2017年8月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

【リンク】
東京医科大学病院・渡航者医療センター

=====================================================
海外感染症流行情報 2017年8月号

1)中東のイエメンでコレラが大流行

アラビア半島のイエメンで昨年10月からコレラの大流行が発生しています。8月中旬までに患者数は50万人以上にのぼり、このうち2000人が死亡しました(WHO 2017-8-14)。これは、第二次大戦後におきたコレラの流行で最大規模になります。同国は2015年からサウジアラビアと戦争状態にありますが、この影響で国内の医療体制が崩壊したことが大流行の一因とされています。WHOなどの支援により、患者発生は6月をピークに減少傾向にありますが、まだ油断を許さない状況です。米国CDCは、医療支援などでイエメンに入国する人に、経口コレラワクチンの接種を推奨しています(米国CDC 2014-8-14)。

2)アジア南部で季節性インフルエンザが流行

7月からアジア南部で季節性インフルエンザの流行が発生しています。香港では7月下旬をピークとして重症患者が536人発生し、388人が死亡しました(香港衛生局 2017-8-17)。ウイルスはA(H3N2)型が多く検出されています。台湾や中国南部でも7月にA(H3N2)型の患者数が増加しましたが、8月には減少しています(WHO 2017-8-15)。また、ミャンマーやフィリピンではA(H1N1)型、タイではA(H3N2)型の患者数が増えています(WHO 2017-8-15)。アジア南部では雨期に季節性インフルエンザが流行する傾向があり、今年はそれが顕著になっているようです。

3)アジアのデング熱流行状況

アジア各地は雨期を迎えており、デング熱の流行がみられています。今年はスリランカでの患者数が多く、8月初旬までに12万人の患者が発生しました(英国FitForTravel 2017-8-8)。また、ベトナムでも患者数が8万人で、昨年より30%多くなっています(WHO西太平洋 2017-8-15)。とくにハノイで患者数が増加している模様です。

4)西ヨーロッパでの麻疹流行

今年は西ヨーロッパ諸国で麻疹が流行しており、8月も各地で患者が発生しています(ヨーロッパCDC 2017-8-11)。ドイツでは8月初旬までに患者数が800人を越えており、これは昨年同期の4倍の数です。また、イタリアでも20歳代を中心に4000人の患者が確認されてています。とくに、北部のミラノで患者発生が多い模様です(ProMED 2017-8-17)。日本では20歳代後半~30歳代の世代で麻疹の免疫力が低く、この世代の人が麻疹の流行国に滞在する際には、事前にワクチン接種を受けておくことを推奨します。

5)ヨーロッパでのA型肝炎流行

ヨーロッパで2016年からA型肝炎の患者数が増加しています(ヨーロッパCDC 2017-8-10)。2017年は7月末までに患者数が5900人にのぼっており、通常の年間発生数の2倍以上です。国別ではスペイン(約2600人)やイタリア(約1400人)で多く発生しています。元々、ヨーロッパでは男性同性愛者の間でA型肝炎の流行がおきていましたが、一般の人々にも流行が拡大している可能性があります。

なお、日本での輸入事例をみても、今年上半期に西ヨーロッパ(スペイン、ドイツ、フランス、イタリア)でA型肝炎に感染した人は6人と、例年よりも多くなっています。A型肝炎は非加熱の魚介類から感染するケースが多く、西ヨーロッパに滞在中もこうした食品には十分に注意する必要があります。

6)南米のベネズエラでジフテリアが流行

ベネズエラでジフテリアの患者数が増加しています。同国ではジフテリアがほぼ根絶されていましたが、昨年夏から患者数が増加し、1年間でその数は400人以上になっています。患者数が多いのは南部のBolivar州で、観光地として有名なギアナ高地のある州です。ジフテリアは呼吸器や心臓が障害される細菌感染症で、飛沫感染などで蔓延します。予防にはワクチンが有効ですが、ベネズエラでは近年、政情不安のため国民へのワクチン接種率が低下しており、それが流行の一因と考えられています。

日本では小児期にジフテリアのワクチン接種を行っていますが、同国に長期滞在する際にはDT(ジフテリア、破傷風混合)ワクチンなどで追加接種を受けておくことをお勧めします。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年7月10日~2017年8 月6日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ2例、細菌性赤痢11例、腸管出血性大腸菌感染症3例、腸・パラチフス1例、アメーバ赤痢9例、A型肝炎2例が報告されています。今月は細菌性赤痢が増加傾向にあり、フィリピン、ミャンマーでの感染が各3例でした。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が20例で、前月(15例)よりやや増えました。感染国はベトナムが6例と多くなっています。なお、今年のデング熱の累積患者数は116例で、昨年同期(196例)に比べて大幅に減少しています。ジカウイルス感染症は1例で、タイでの感染でした。マラリアは6例で、アフリカでの感染が5例、インドでの感染が1例でした。

3)その他の感染症:麻疹の輸入例が1例報告されており、インドネシアでの感染でした。風疹の輸入例は1例で、タイでの感染でした。マレーシアでレプトスピラ症に感染した患者が1例報告されています。川や湖など淡水で泳ぐことで感染する病気です。

・今月の海外医療トピックス

9月28日はWorld Rabies Day(世界狂犬病の日)

狂犬病ワクチンの発明者であるルイ・パスツールの忌日にちなんで、2007年9月28日が最初の「世界狂犬病の日」として制定されました。以来、毎年、9月28日を狂犬病の日としてWHOやCDCなどが啓発活動を行っています。2017年のテーマは“Rabies: Zero by 30 ”(2030年までに狂犬病を撲滅しよう)です。

日本国内では、2006年にフィリピンで犬に咬まれ、帰国後発症し亡くなられた症例がありましたが、1957年以降、国内発生例の報告はありません。しかし、世界では33億人が狂犬病の感染リスクにさらされ、毎年5万人が死亡し、その半数以上が子供たちです。狂犬病は咬傷を受けてから正しい処置を行えば救命可能な疾患であるため、正しい知識を持つことが狂犬病による死亡を防ぐ手段の一つと言えるでしょう。 兼任講師 古賀才博

https://rabiesalliance.org/world-rabies-day

・渡航者医療センターからのお知らせ

1)トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメディカルサイエンス研究会主催)

第32回研修会が下記の日程で開催されます。今回は「海外渡航者と麻疹」、「髄膜炎菌ワクチン」などがテーマです。


・日時:2017年9月2日(土)午後1時半~午後5時半 ・会場:日本教育会館(東京・神保町) 

・プログラムや申し込み方法はバイオメディカルサイエンス研究会のホームページをご覧ください。https://www.npo-bmsa.org/研修会-セミナー情報/トラベラーズワクチンフォーラム/

2)グローバルヘルス合同大会(日本渡航医学会、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会主催)

日本のグローバルヘルスに関係する学会の合同学術集会が下記日程で開催されます。渡航医学に関する特別講演やシンポジウムも数多く予定されています。日本渡航医学会の会長は当センター教授の濱田が務めます。多くの方々の参加をお待ちしています。

・日時:2017年11月24日(金)~26日(日) ・会場:東京大学・本郷キャンパス

・プログラムや参加方法はグローバルヘルス合同大会のホームページをご覧ください。http://www.pco-prime.com/globalhealth2017/