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海外医療通信2017年6月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外医療通信 2017年6月号

海外感染症流行情報 2017年6月号
1)中国で鳥インフルエンザH7N9型の流行が続く
中国では昨年秋から鳥インフルエンザH7N9型の第5波の流行が発生しています。第4波までの流行は5月以降鎮静化していましたが、今回は5月も72人の患者が発生しました(外務省・海外安全ホームページ 2017-6-16)。なお、第5波の流行状況を解析した結果が報告され、患者の発生地が都市部から郊外に移動している点や、患者の年齢が高齢者から中年者に変化している点などが明らかになっています(Lancet infectious diseases 2017-6-2)。また、今年の1月に死亡した56歳男性から、オセルタミビル(タミフル)耐性のウイルスが検出されました(Emerging Infectious Disease 2017-6-1)。H7N9型については、第5波の流行とともに鳥への病原性が増強していることが明らかになっており、今後、注意深く流行状況を監視する必要があります。

2)アジアのデング熱流行状況
東南アジアでは雨季のシーズンを迎え、デング熱の流行が各地でみられています(WHO西太平洋 2017-6-6)。今年はマレーシア、シンガポール、フィリピンなどで、昨年より患者数が少なくなっていますが、滞在中は蚊に刺されないように予防対策をとってください。なお、今年は南アジアのスリランカで患者数が多く、5月末までに5万人と昨年1年間を上回る数になりました(Fit For Travel 2017-6-2)。

3)サウジアラビアでMERSの集団感染が発生
サウジアラビで5~6月に中東呼吸器症候群(MERS)の患者が70人以上発生しました(WHO 2017-6-6, 13, 19)。患者の多くは、首都リヤドの複数の病院でおきた集団感染に関連するものです。中東では2012年よりMERSの流行が発生しており、とくにサウジアラビアでの患者数が多くなっています。同国では今年の8月末にイスラム教の大巡礼(ハッジ)が予定されており、全世界から約300万人のイスラム教徒が来訪しますが、この時期にMERSが拡大することが懸念されています。なお、日本の国立感染症研究所は最近のMERS流行に関するリスクアセスメントを6月に発表しました。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/alphabet/mers/2186-idsc/7322-mers-riskassessment-20170616.html

4)ヨーロッパでの麻疹流行
ヨーロッパ諸国では今年になり麻疹の患者数が増加しています。イタリアでは患者数が2900人にのぼっており、これは昨年の3倍近い数です(ヨーロッパCDC 2017-6-16)。また、ドイツでも600人を越えており、昨年同期の約10倍の数になっています。この他、英国やフランスでも患者数の増加が報告されています。日本では20歳代後半~30歳代の世代で麻疹の免疫力が低く、この世代の人が麻疹の多発国に滞在する際には、事前にワクチン接種を受けるなどの対策を推奨します。

5)東アフリカでのコレラ流行
タンザニアでは2015年からコレラの流行が発生しており、現在までに累積患者数は3万人近くにのぼっています。5月中旬には首都のダルエスサラームやザンジバルで、60人近くの集団発生がありました(WHO東地中海 2017-6-15)。タンザニアには日本からの観光旅行者も多く、滞在中は飲食物への十分な注意が必要です。

6)中南米でのジカウイルス感染症の現況
ブラジルなど南米諸国ではジカウイルス感染症の患者が毎週1000人以上発生しており、相変わらずの流行が続いています(米州保健機関 2017-5-25)。一方、中米やカリブ海地方では、流行が鎮静化してきています。また、米国のフロリダ州やテキサス州でみられていた流行は終息しました。なお、ブラジルでのジカウイルス感染症の流行は、当初2015年から発生したと考えられていましたが、その後の調査で2012年頃から流行していた模様です(Emerging Infectious Disease 2017-6-19)。

7)南半球でインフルエンザ流行はじまる
南半球は冬を迎えており、季節性インフルエンザの流行時期になっています。現在までに南米のチリやパラグアイでH3N2型の流行が発生していますが、オーストラリアやアフリカ南部ではまだ本格的な流行は発生していません(WHO 2017-6-12)。


・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年5月8日~2017年6 月11日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢5例、腸管出血性大腸菌感染症2例、腸・パラチフス3例、アメーバ赤痢8例、ジアルジア4例、A型肝炎8例、E型肝炎5例が報告されています。今月はA型肝炎が増えており、感染国はイタリア、ドイツが各1例でした。最近、欧米諸国で男性同性愛者にA型肝炎が流行しており(WHO 2017-6-7)、その影響も考えられます。また、E型肝炎も増加傾向で、中国での感染が3例と多くなっています。E型肝炎は動物の肉から感染する疾患で、海外で肉を食べる際には十分に加熱してください。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が14例で、前月(3例)から増加しました。感染国はマレーシア、スリランカが各4例と多くなっています。なお、今年のデング熱の累積患者数は78例で、昨年同期(145例)に比べて半数近くに減少しています。マラリアの患者は、前月に続き今月も報告がありませんでした。

3)その他の感染症:麻疹の輸入例が1例報告されており、タイでの感染でした。

 
・今月の海外医療トピックス
褐色の肌は健康的?
これからの季節、屋外で活動する方が気をつけるべきことに、熱中症や虫咬症などに加えて日焼けの健康問題があります。UVBによるサンバーン(紫外線による皮膚の火傷)を防ぎ褐色の肌を手に入れたい人は、人工的にUVAを浴びる日焼けサロンなどを利用することになりますが、WHOや日本皮膚科学会はUVAの健康被害についても警鐘を鳴らしています。健康的なイメージの褐色の肌は、長期的にはしわや皮膚癌のリスクが高まるため、今後は意識を変える必要があります。日焼けを防ぐためサンスクリーン剤を使用しますが、UVBに対する防御効果を表すSPFに加えてPA(Protection Grade of UVA)の表示も意識してください。虫除けを使用する際はサンスクリーン剤を先に塗り、その上に虫除けを塗る順番も大切なポイントです。 兼任講師 古賀才博
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa2/q14.html (日本皮膚科学会のサイト)
http://www.who.int/phe/news/sunbeds-skin-cancer/en/ (WHOのサイト)

                             
・渡航者医療センターからのお知らせ
1)第18回渡航医学実用セミナー(当センター主催)
今回は「海外渡航者の麻疹対策」と「海外勤務者と労災保険」をテーマに、下記の日程で開催します。まだ若干空席がありますので、ご興味のある方は、どうぞご参加ください。なお、今回は「海外渡航者の予防接種Q&A」というコーナーも設け、事前に参加者からいただいた質問にもお答えします。
・日時:2017年6月29日(木)午後2時~午後4時半 ・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂
・プログラムの詳細は当センターHPをご覧ください。http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html
・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。「海外渡航者の予防接種Q&A」への質問も、参加申し込みのメールアドレスまでお送りください。

2)ジャムズネット東京講演会(ジャムズネット東京主催)
ジャムズネット東京の第6回講演会が下記の日程で開催されます。今回は「異国での生と死をみつめて」をテーマに、作家の浅田次郎さんや外務省診療所の仲本所長などが講演します。
・日時:2017年7月23日(日)午後2時~午後4時半 ・会場:東京医科大学病院6階 臨床講堂
・プログラムや申し込み方法はジャムズネット東京のホームページをご覧ください。http://www.jamsnettokyo.org/