今年はジカ熱など感染症にフォーカス-旅行医学会大会

  • 2016年4月27日

キャラハン氏の講演の様子  旅行者の安全や健康管理に関する情報を発信している日本旅行医学会は4月16日と17日、都内で第15回の大会を開催した。今年のテーマは「感染症の旅行医学PartII」で、第13回の「感染症の旅行医学 PART1~ワクチンと危機管理」に続くもの。大会の目玉として、米国から熱帯病研究のエキスパートを急遽招聘し、ブラジルなどで拡大しているジカ熱に関する講演をおこなうなど、さまざまな感染症の脅威について情報交換をおこなった。

 14年のアフリカ西部におけるエボラ出血熱の拡大や、日本国内でのデング熱の確認、15年の韓国における中東呼吸器症候群(MERS)の発生、そして昨年からのジカ熱の流行などが続くここ数年は、16日に発表におこなった長崎大学病院感染制御教育センター長の泉川公一氏によれば「言い方は悪いが“感染症の当たり年”」。同学会でも、これらの感染症が日本人の旅行に与えた影響の大きさなどを勘案して、改めて大会のメインテーマに据えたという。

キャラハン氏  熱帯病研究のエキスパートである米国マサチューセッツ総合病院国際救急医療チーム医師のミッシェル・キャラハン氏は、16日午後に「中南米におけるジカ熱の緊急レポート~進行中のジカ熱における治療と現状~」と題した講演で、旅行者向けのジカ熱予防法について解説。ジカウイルスの概要や臨床症状、現時点での診断法や治療法などについて紹介した。

 妊婦が感染すると胎児が小頭症などを発症するリスクがあるとされるジカ熱は、蚊などがジカウイルスを媒介することでおこる感染症。主な症状としては軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛などが挙げられる。致死率は高くないが有効なワクチンや治療法もなく、蚊に刺されることを防ぐことが唯一の予防法。4月22日の時点で日本では輸入症例8例が確認されており、今年の2月以降については5例が確認されている。

 ジカウイルスは1940年代から存在を知られており、これまでにも熱帯を中心に世界の各地で感染を確認されてきた。しかし昨年5月から拡大が続くブラジルでは、政府がこのほど、妊婦のウイルス感染と胎児の小頭症に関連が見られると発表。今年1月に入ってからは米国疾病予防管理センターなどが詳細な調査結果が得られるまでは、流行国への妊婦の渡航を控えるよう警告し、2月には世界保健機関(WHO)も緊急事態宣言を発出している。

会場の様子  キャラハン氏は旅行中の予防対策として、蚊が発生しやすい水たまりやゴミ捨て場などを避けること、移動の際には風上側の場所を選ぶこと、窓やドアに虫除け用の網を張ること、衣類に防虫処理をおこなうこと、虫除けを使用することなど、あらゆる策を講じて蚊に刺されないようにすることを説明。そのことがマラリア、デング熱、黄熱病など、その他のさまざまな感染症の予防につながることも強調した。女性については、ジカ熱の流行地に滞在している間は妊娠を避けるようすすめた。

 また、ジカウイルス感染者の70%から80%は発症しないことについて述べた上で、流行地からの帰国者が取るべき行動についても説明。日本国内の蚊がウイルスを保有することを防ぐために、帰国後7日間は蚊に刺されないようにすること、ジカウイルスは治癒後も数週間は精液中に存在することから、男性は検査が済むまで性交渉の際に必ずコンドームを使用すること、女性は帰国後最低30日は妊娠を避けることなどを列挙した。

日本旅行医学会事務長の西村修氏  ジカ熱については17日にも、国立感染症研究所ウイルス第一部第2室室長の高崎智彦氏による公開講座「ジカウイルス感染症と先天性障害」を開催。同学会事務長の西村修氏によれば、2日間のいずれかにしか参加できなかった人にも、ジカ熱に関する情報を提供したかったという。同氏は旅行業界に対しては、日本旅行業協会(JATA)や旅行会社などがジカ熱の正しい理解に努め、一般の旅行者に正確な情報を伝えていくことを希望した。

 そのほかに今回は「ウイルス性肝炎の旅行医学」「日本も汚染国 南米の奇病 シャーガス病」「トラベルワクチンの開発と歴史」「海外渡航と狂犬病」などの講演や発表がおこなわれ、2日間で900名以上の参加者を集めた。第16回大会は来年の4月15日と16日に開催する予定。