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海外医療通信2015年12月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報(2015年12月)

1)ブラジルなどでジカ熱の患者が増加

ジカ熱はネッタイシマカなどの蚊に媒介される熱性疾患で、デングウイルスと近縁のウイルスによっておこります。アフリカやアジアが本来の流行地でしたが、2013年から南太平洋で新たな流行が発生しました。また、2014年にはアメリカ大陸に上陸し、ブラジルなどで患者数が急増しています。12月中旬の時点で患者発生が認められた国は、ブラジルのほかに南米のコロンビア、ベネズエラ、ウルグアイ、スリナム、中米のエルサルバドル、グアテマラ、メキシコ、パナマ、ホンジェラスとなっています(Europe CDC 2015-12/18、WHO GAR 2015-12/21,22)。また、ブラジルでは、妊婦のジカウイルス感染によると推定される小頭症(頭部が小さくなる奇形)の出生児が11月から増加しており、12月中旬までに2401人の患児が確認されています(Europe CDC 2015-12/18)。このうちの874人はペルナンブコ州での発生です。さらに、神経疾患であるギランバレー症候群を併発した事例も増えているとの報告があります。

ジカ熱による小頭症の発生は妊娠初期に感染した場合におきる可能性があります。流行地域に妊娠中の方が滞在する際には、蚊に刺されない対策を十分にとるようにしましょう。なお、2016年はブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されるため、多くの日本からの観光客がブラジルを訪問します。こうした観光客も注意が必要です。

2)アジアでのデング熱流行状況

今年、台湾では例年にない規模のデング熱流行がみられていましたが、12月になり患者発生は鎮静化しています。12月までに患者数は4万人で、このうち195人が死亡しました(ProMED 2015-12/10)。タイでも今年は12万人の患者が発生していますが、雨季が長く続いたことが患者数増加に影響しているようです(ProMED 2015-12/10)。これ以外にマレーシアで11万人、フィリピンで16万人と患者数が多く、いずれの国も昨年より患者数が増えています(WHO西太平洋 2015-12/15)。

なお、サノフィ社が製造しているデング熱ワクチン(Dengvaxia)が12月にメキシコで承認されました(ProMED 2015-12/10)。発売までにはまだ時間がかかりますが、発売後は輸入ワクチンとして日本での接種も可能になる模様です。詳細はサノフィ社のHPをご参照ください。

http://www.sanofipasteur.com/en/articles/dengvaxia-world-s-first-dengue-vaccine-approved-in-mexico.aspx

3)中国での鳥インフルエンザA(H7N9)型の流行

中国では2013年から沿岸部を中心に鳥インフルエンザA(H7N9)型の患者発生がみられています。毎年流行は冬~春にかけて発生していますが、今年は12月の患者数が2人とあまり多くありません(WHO GAR 2015-12/17)。今後、2月の春節を中心に患者数が増える可能性もあり、中国沿岸部に滞在する際は引き続き注意が必要です。

4)最近のMERS流行状況

今年5月~7月に、韓国ではMERS(中東呼吸器症候群)の患者が186人発生し、33人が亡くなりました。韓国政府は12月23日にこの流行が終息したことを正式に宣言しました。サウジアラビアでも今年4月~7月に東部Houfufの医療機関で40人以上の患者が発生しました。その後も患者が散発していましたが、12月は患者数が3人と減少している模様です(WHO GAR 2015-12/4)。なお、日本の国立感染症研究所は12月の月報(病原微生物検出情報)でMERSの最近の流行状況を報告しています。この解析によれば、MERSウイルスのヒトからヒトへの感染伝播の可能性は高くないとの結果です。

http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2321-iasr-archive/iasr-vol36/6152-iasr-430.html

5)北半球の季節性インフルエンザ

今季は日本での季節性インフルエンザの流行が例年になく遅れていますが、ヨーロッパ、北米でも本格的な流行はみられていません(WHO influenza 2015-12/14)。一方、イランの南西部ではA(H1N1)型の流行が発生しており、30人以上が死亡したという情報もあります(ProMED 2015-12/9)。

6)ハワイでのデング熱流行状況

ハワイ島のコナ周辺で今年の9月からデング熱の流行が発生しています。12月末までに患者数は176人になっており、最近1カ月で倍近くに増えています(ハワイ州保健局2015-12/23)。正月期間中はハワイを訪問する日本からの観光客も増えますが、滞在中は蚊に刺されないように注意する必要があります。


・日本国内での輸入感染症の発生状況(2015年11 月9 日~2015年12月6 日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢7例、腸・パラチフス3例、アメーバ赤痢8例、A型肝炎4例、E型肝炎1例が報告されています。腸管出血性大腸菌感染症の報告はありませんでした。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が12例で、前月(17例)から減少しました。感染国はフィリピンが5例と最も多く、ベトナムが各2例で続いています。なお、今年のデング熱累積患者数(輸入例)は274例で過去最多となりました。チクングニア熱は1例報告されており、感染国はフィリピンでした。マラリアの報告はありませんでした。

3)その他の感染症:麻疹が1例報告されており、インドネシアでの感染でした。風疹も1例で、米国かメキシコでの感染でした。また、韓国でツツガムシ病に感染した事例が2例報告されています。この病気はダニの一種であるツツガムシに媒介されるリケッチア疾患で、森林などに立ち入ると感染します。


・今月の海外医療トピックス

妊婦へのTdapワクチン接種

日本国内では妊婦に季節性インフルエンザワクチンの接種を行うことが、産婦人科学会などの様々な啓発活動により一般化しました。最近、トラベルクリニックを受診される妊婦の方で、Tdap(成人向けの破傷風、ジフテリア、百日咳に対する追加用ワクチン)を希望される方もいます。

下記の米国CDCのサイトでは、妊娠27週から36週の妊婦に対して、Tdapワクチンの接種を強く推奨しています。以前は米国で出産する娘の付き添いに行く親御さんが、現地の医療機関からTdapワクチンの接種を求められ、輸入ワクチンを取り扱う医療機関へ問い合わせるケースがありましたが、今後は米国内で出産する妊婦へのTdapワクチンの問い合わせが増えるかもしれません。 兼任講師 古賀 才博 

参考 http://www.cdc.gov/pertussis/pregnant/hcp/pregnant-patients.html


・渡航者医療センターからのお知らせ

1)  第15回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

次回の実用セミナーは下記日程で開催予定です。テーマは「リオデジャネイロオリンピック関連の話題」や「高山病関連の話題」を予定しています。申し込み方法などの詳細は1月初旬に当センターのホームページでご案内します。

・日時:2016年2月25日(木) 午後2時~5時

・場所:東京医科大学病院・臨床講堂(新宿)

2)第21回海外勤務者健康管理研修会(海外勤務健康管理全国協議会主催)

標記研修会が下記の日程で開催されます。今回は「海外勤務者のメンタルヘルス対策」に関するシンポジウムを行います。

・開催日:2016年1月23日(土) 午後2時~4時
・会場:コンファレンスプラザ大阪御堂筋(大阪市) 
・詳細は以下のホームページをご参照ください。http://www.sigma-k4.jp/img/kenshu_21.pdf

3)第29回トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメデイカルサイエンス研究会主催)

標記研修会が下記の日程で開催されます。今回は「最近の渡航者用ワクチンをめぐる変化」に関する講演などがあります。

・日時:2016年2月13日(土)午後1時半~5時半 
・会場:国立国際医療研究センター 研究所B棟地下会議室(新宿区)  
・詳細は以下のホームページをご参照ください。http://www.npo-bmsa.org/img/tvf29_2nd.pdf

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