海外医療通信2015年11月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報(2015年11月)

1)アジアのデング熱流行状況

アジア各地でデング熱の流行が報告されています。

台湾では例年以上の患者が発生しており、11月中旬までに台南を中心に3万2000人が確認されました(ProMED 2015-11/17)。今後、気温の低下で流行は鎮静化するものとみられていますが、引き続き蚊に刺されない注意が必要です。東南アジアでもマレーシアで10万人、フィリピンで12万人、ベトナムで4万人と昨年より患者数が増えています(WHO西太平洋 2015-10/20)。

今年はインドでも患者発生が多く、全土で6万4000人になっています。とくにデリーでは患者数が1万5000人にのぼっており、例年にない流行となっている模様です(ProMED 2015-11/17)。

2)台湾で狂犬病に感染した動物が確認

台湾は日本と同様に狂犬病の流行が無い地域とされていましたが、最近、動物の感染例がいくつか報告されています。今年の10月には台湾中部にある嘉義市の山間部で79歳女性がアナグマに咬まれる事例が発生しました。このアナグマを調べたところ、狂犬病に感染していることが判明しました(ProMED 2015-10/30)。この女性は暴露後のワクチン接種を受けています。

台湾への渡航者が出国前に狂犬病のワクチン接種を受ける必要は今のところありませんが、現地で動物咬傷を受けた際には、狂犬病の暴露後接種を受けるようにしましょう。

3)イラクでコレラが流行

イラクのバグダットなどでコレラの流行が発生しています。患者数は2000人以上にのぼっており、近隣のクウェートやバーレンなどに流行が拡大しているとの情報もあります(ProMED 2015-11-8)。12月にイラクではイスラム教の祭典が行われるため、流行がさらに拡大することが懸念されています。

コレラには経口ワクチンがあり、Dukoralという製剤が世界的に用いられてきました。しかし、最近、このワクチンの流通量が少なくなっているため、インド製のShancholという製剤が主に使用されています。いずれも日本では未承認ですが、輸入ワクチンを扱うトラベルクリニックで接種を受けることができます。

4)西アフリカでのエボラ熱の流行

西アフリカでは昨年来、エボラ熱の流行が続いていますが、最近は患者発生数がかなり少なくなっています。最近1カ月の患者数は約100人で、ほとんどがギニアでの発生でした(WHO GAR 2015-11/19)。11月初旬にはシェラレオネが流行の終息を宣言しました(WHO GAR 2015-11/5)。その一方、今年の9月に流行終息を宣言したリベリアで、11月中旬に3人の患者が発生しました(WHO GAR 2015-11/23)。リベリアでの流行再燃は元患者の体内に残るウイルスが原因になった模様です。なお、日本の検疫所ではギニアから日本に入国する者への健康監視を続けています。同国に滞在した場合は必ず検疫所に申告してください。

5)2016年南半球のインフルエンザワクチン

WHOが2016年に南半球で使用するインフルエンザワクチンの推奨株を発表しました。

http://www.who.int/influenza/vaccines/virus/recommendations/2016_south/en/

今季の北半球用ワクチン株に比べて、A香港型(H3N2)とB型が若干変更になっています。

2016年8月にはブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されますが、この時期は南半球がインフルエンザの流行シーズンになるため、大会の参加者にはインフルエンザワクチンの接種が推奨されています。今回のWHOの発表は、この時に使用する南半球用ワクチンの基準になるものです。

6)ハワイでデング熱流行が発生

ハワイ島のコナで今年の9月からデング熱の流行が発生しています。11月末までに患者数は92人にのぼっており、このうち13人は旅行者でした(ハワイ州健康局 2015-11/23)。患者の年齢は成人が70人と大多数を占めています。

ハワイにデング熱は常在していませんが、輸入例を起点とした流行が時折発生します。媒介蚊は昨年の日本での国内流行と同様にヒトスジシマカです。ハワイ島は1月をピークに雨の多い時期になるため、デング熱の流行がさらに拡大することも予想されます。ハワイ島に旅行などで滞在する際は蚊に刺されないようにしましょう。


・日本国内での輸入感染症の発生状況(2015年10 月12 日~2015年11月8 日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ2例、細菌性赤痢6例、腸管出血性大腸菌5例、腸・パラチフス5例、アメーバ赤痢5例、A型肝炎3例が報告されています。コレラは2例ともフィリピンで感染しており、腸チフスは全例が南アジア(インド2例、バングラディッシュ3例)での感染例でした。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が17例で、前月(45例)から大幅に減少しました。感染国はフィリピンが7例と最も多く、インドネシア、ミャンマーが各3例で続いています。チクングニア熱は1例報告されており、感染国はインドでした。マラリアは3例で、感染国はアフリカ(ガーナ、コンゴ民主)とパキスタンでした。

3)その他の感染症:麻疹が2例報告されており、いずれも中東のカタールでの感染でした。米国でライム病に感染した事例が報告されています。この病気は米国北東部を中心に流行している熱性疾患で、マダニに媒介されます。皮膚の発疹、関節痛、神経症状などをおこすこともあります。


・今月の海外医療トピックス

海外勤務者のストレスチェックに関して

いよいよ2015年12月より日本国内では、従業員数が50名以上の企業に対し、ストレスチェックの実施が義務付けられます。それに伴い海外勤務者への対応に関する問い合わせも増えてきました。

海外で働く形態としては、日本国内の事業主の指揮命令により海外で業務に従事する“海外出張”と現地の企業に派遣され、現地の指揮命令で働く“海外派遣”があります。海外出張の場合は、それが長期になったとしても国内従業員と同様にストレスチェックの実施が求められますが、派遣の場合は現地法規が適応となるため対象にはなりません。企業によっては、海外派遣者に対し、従業員規則に健康診断やストレスチェックの受診を盛り込むことで国内従業員と同様の対策を行っているところもあります。 兼任講師 古賀才博

厚生労働省 ストレスチェック制度 Q&A

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-2.pdf


・渡航者医療センターからのお知らせ

渡航者医療センターでの海外健診(検査当日の結果説明可)

当センターでは労働安全衛生法に定める海外派遣労働者の健康診断を行っています。ほとんどの検査結果は当日に説明を行うことが可能です。また、予防接種を同じ日に受けることもできます。健康診断の詳細は下記をご参照ください。http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/shinryo.html

レジリエンス外来(海外勤務者のメンタルヘルス外来)開設のお知らせ

当センターではレジリエンス外来を開設しています。「レジリエンス」とは、環境の変化に対し、しなやかに、したたかに適応していく力のこと。様々な変化が一度に起きる海外赴任では、このレジリエンスが、健康な生活をおくり、パフォーマンスを上げる鍵となります。当外来では、精神科専門医が海外勤務者のメンタルヘルス対策のご相談にのり、レジリエンスを高めるお手伝いをいたします。ご利用には事前の企業登録が必要になりますので、詳細は当外来のHP(リンク先)をご参照ください。http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/resilience.html

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