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東日本大震災、旅行業界へのインパクト〜復興へのスタートは現状把握から

 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、地震による津波、それによる原発事故の誘発と被害が広がり、発生から2週間が経過した現在も、その全容がつかめていない。旅行業界においても現状把握と平行しながら、それぞれの対応に追われていたのが現状だ。未曽有の危機からの復興を考えるにあたっては、まずは今何が起こり、何が必要なのかを、業種や立場、役職にかかわらず、それぞれの立場で把握することが必要だろう。トラベルビジョンでは先週まで特別誌面とし、関連情報の随時更新に努めてきた。これまでに伝えてきた今回の地震による旅行業界への影響と、現在までの対応についてまとめた。


地震・津波が旅行業界に与えた直接的な影響

 旅行業界でその影響が最初に目に見えるのは、航空や新幹線など交通機関への影響だ。地震発生後、東北地方と関東地方などの各空港が閉鎖。羽田空港や成田空港など、安全確認が終了し、運用に支障がない空港は順次再開したものの、国土交通省によると当日午後11時現在で、913便が欠航、325便が遅延となった。(3月27日現在、仙台空港以外は運用している)。

 鉄道は、在来線が翌日の12日から、運行に支障のない路線で本数を減少させて順次再開。一方、東北新幹線、山形新幹線、秋田新幹線は12日以降も運休。東北新幹線や秋田新幹線は一部区間で再開したものの、山形新幹線は現在も運行を見合わせている。また、高速バスも首都圏/東北間の高速道路の閉鎖に伴い運行を中止していたが、3月18日以降、順次再開。3月22日以降、一般車両も通行禁止区間以外は通行が可能となった。このほか、各観光地、観光施設も被災し、全国からの集客力のある東京ディズニーリゾートが地震発生後、施設の点検作業を理由に営業を停止した。

 交通や施設の営業状況にあわせ、旅行会社は旅行商品の取扱いについて発表。大手旅行会社の多くが、海外ツアーについては利用予定航空便の運航状況に応じて催行可否を決めるとし、地震の影響で空港に集合できない場合には取消料を収受しないことを決定した。国内ツアーは、具体的な内容は会社によって異なるものの、各社とも被災した方面への催行中止を決定。一方で、地震後見合わせていた高速バスツアーを3月25日以降、一部再開するなど、状況にあわせてツアー催行を実施している。

 ツアーキャンセルの対応と同時に旅行会社が最優先事項としたのは、被災地域を訪れていた旅行者への対応だ。しかし、確認作業が難航し、日本旅行業協会(JATA)の聞き取り調査で判明したのは、3月18日時点で計17社の約6400人。観光庁によると、残念なことに3月25日現在で4人の死亡が確認されたという。また、外国人旅行者の被害報告は現時点ではないが、在京公館や日本政府観光局(JNTO)で引き続き、確認作業を実施している。

 一方で、被災地域の観光施設、被災した旅行会社の数は、明らかになっていない。ただし、JATA東北支部によると、正確には把握できていないものの、支部会員35社は全て被災しているという。


原発事故が与えた影響

 今回の災害の大きな特徴は、地震と津波に加え、これが誘発した原発事故による三次被害があることだ。事故が収まるまでその影響の実態はわからないが、現在のところ、旅行業界には国際線の運航変更と訪日需要の激減という影響が現れている。

 もともと、大規模な地震の発生を受け、日本への渡航の自粛や注意を促す諸外国政府があり、訪日旅行への影響は懸念されていた。しかし、さらに原発事故が報じられると海外各国で退避勧告や注意喚起が発出され、日通旅行では4月から5月のツアーでも被災地域へのツアーのみならず約9割がキャンセルとなった。風評被害も出ており、全日本通訳案内士連盟(JFG)でも、西日本や東京都内を回るツアーを中心に約90件の通訳案内士業務のキャンセルがあったという。こうした状況下で、観光庁はビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)関連事業を当分の間、自粛することを決定した。

 国際線では、各国政府が救援機の派遣を決定。国交省は24時間体制でこれに対応し、ピーク時には平均で1日4、5便程度の運航申請があったという。定期便では特に長距離方面のフライトを中心に、東京での乗務員のオーバーナイトを避けるため、中部や関空のほか仁川や北京で給油と乗務員交代をするための大幅なスケジュール変更も実施された。航空会社の多くが地震の影響による払戻しや手数料無料での変更などの特別措置を実施していたが、スケジュール変更を理由にした特別措置も実施。航空会社はもちろん、旅行会社も手配した旅行者への対応が必要となった。

 さらに需要動向に応じて、運航スケジュールの変更も出ている。中国国際航空(CA)の成田/成都、武漢へのプログラムチャーター中止や、イースター航空(ZE)の新千歳/仁川線航の延期といった新規路線やインバウンドの強い路線をはじめ、デルタ航空(DL)の羽田線運休のように、出発地の需要が重複する路線を統合するケースもある。夏期からの増便予定を撤回したシンガポール航空(SQ)の関空線のように、被災地から離れた路線でも、供給量を調整する動きも見られる。


旅行会社の損害は

 原発事故と計画停電の実施も、旅行業界に影響を及ぼしている。例えば、日本旅行ではグループ会社を含む東北と関東の店舗のうち4店舗で営業中止、23店舗で時間短縮とするなど、各社とも店舗営業で通常と異なる対応が生じている。また、通勤への支障を考慮し、エクスペディア・ジャパンでは3月25日まで、東京オフィスを一時クローズして自宅勤務とし、一部スタッフを大阪に異動させるなど、業務機能の移転を実施して対応する例もある。

 営業時間短縮の傾向は航空会社でも見られるほか、大使館や観光局にも一時的なオフィスクローズや一部業務の停止、当面の自宅勤務とする措置を実施するところもある。観光局による業界向けイベントも軒並み中止となっている。このほか、東京ディズニーリゾートは施設の安全確認後も、電力供給の縮小などの外部環境を理由に営業再開を見合わせている。

 需要面では、国内旅行が急減。ジェイティービー(JTB)は3月の国内旅行予約者が前年比33%減となり、特に東北方面は70%減となった。近畿日本ツーリスト(KNT)も国内パッケージツアー予約が3月は30%程度、4月は20%程度減少。さらに、阪急交通社でも、地震発生前は4月、5月とも10%以上の伸びを示していたが、地震後には4月が30%減、5月も20%減となったという。

 また、全国旅行業協会(ANTA)理事兼栃木県支部長の国谷観光代表取締役社長の國谷一男氏によると、栃木県支部の会員約185社にアンケートを実施している最中だが、3月15日現在では約2000名のキャンセルが発生。東北方面だけでなく、被災地以外を目的地とした旅行のキャンセルも起きており、こうした状況は長期化する見通しだという。同氏は「人的被害はないが、地震発生以来ほとんどの電話がキャンセルの連絡で、厳しい会社運営が続く」としている。

 一方、海外旅行への影響は、国内旅行に比べて少ない様子。KNTでは、3月からゴールデンウィークまで1割減程度で推移しているといい、阪急交通社も4月は25%減ながら、5月は5%減、6月は横ばいだ。JTBも、新規予約とキャンセルの両方が入ってきているものの、全体としては前年を超えているという。


現在までに実施・決定された対策

 こうした状況のなか、JATAは東北地方太平洋沖地震で被災した会員会社に対する会費の免除措置や緊急金融支援要請などに取り組む考えだ。今後、各委員会で情報や意見を交換しながら具体的な対応について検討していく。国内旅行委員会では震災への対応、対策を協議するワーキンググループの立ち上げを決定した。今後の方針はまだ決まっていないが、JATAでは旅行振興が被災地支援につながるとの認識で、JATA事務局長の長谷川和芳氏は「経済復興のなかでの観光の役割を意識して取り組みたい」と話している。

 また、ANTAでは3月16日の理事会で、会長の二階俊博氏が旅行会社各社への支援策として「第一に緊急融資。災害が直撃した地域には、何らかの助成措置が取れないか検討していく必要がある」との考えを示した。また、風評被害によるキャンセルの増加に懸念も表明。JATAや観光庁と連携して対応を進めるが、まずは「民間旅行業界が先頭に立つべき」とし、当面は専務理事同士の話し合いで事務的な調整を実施したい意向だ。また、3月12日にはANTA内に「東北地方太平洋沖地震対策本部」を立ち上げており、被害状況などを把握し、国に対する具体的な要望を含め、支援策を早急に検討していく。観光庁に対しては、旅行業の更新登録について1、2年の特例措置を要望したい考えを示した。

 こうした状況を受け、観光庁は3月21日、被災した地域の旅行会社を対象に、旅行業登録の有効期間を8月31日まで延長することを決定。また、3月23日には影響を受けた旅行業者や宿泊業者が活用できる支援策を取りまとめた。融資や保証、資金繰りなどに関するもので、日本政策金融公庫と商工中金による災害復旧貸付など「被災地への支援策」、セーフティネット貸付など「被災地以外の支援策」、融資や保証などに関する「相談窓口」の3本立て。震災から2週間の現段階では、直接被災した関係業者の当座の経営にかかわる資金面の支援、対応が中心だ。


旅行業界の被災者支援

 東日本大地震の被災者救援のため、旅行業界でも支援の輪が広がっている。航空会社が救
援物資の提供や無料輸送、マイレージの寄付や義援金といった支援を開始するなか、旅行会
社では旅工房が、旅行代金のうち1000円を義援金として寄付することをいち早く発表。JTB
は「観光業界にとっても重要な地域」として、1億円を拠出するという。また、HISでは「旅
行者の運ぶ力」の支援として、旅行者が海外旅行先からペットボトル水を持ち帰り、寄付
とすることを呼びかけている。

 また、複数の観光局が、旅行会社と共同で旅行代金の一部を義援金とするキャンペーン
を計画。このほか、全国の通訳案内士団体15団体は、国や自治体の要請に対し、海外から
の医療従事者への通訳業務などのボランティア活動を申し出ている。

 一方、観光庁は旅館やホテルなどの宿泊施設で、県境を越えた被災者の受け入れ支援を実
施する。災害救助法を活用し、関係団体や自治体の協力のもと客室を借り上げ、一時的な避難
場所として被災者に無料で提供する。また、旅行業者と連携してバスなどの移動手段の手配
も実施する。3月25日現在、秋田県、山形県、群馬県、神奈川県、富山県、愛知県の6県か
ら、公的施設や組合員以外の施設を含む3万778人分の受入施設を確保したという。