ネット旅行サイトは群雄割拠
ネット旅行サイトは群雄割拠
インターネットの「視聴率」で旅行サイトは利用者数の多い順でYahoo!トラベル、楽天トラベル、じゃらんが400万人台で拮抗。ジェイティービーは321万人、日本旅行153万人と旧来の旅行会社はネット系旅行会社には及ばない。ただし、国内インターネット利用者全体の55%が旅行サイトを利用、前年から利用者数で330万人増と市場は着実に拡大している。そうした中、各社の思惑や利用者の動きにも変化が訪れてきている。
i.JTB 社長の北上氏
i.JTB 社長の北上氏
ネットレイティングス公表の7月の利用者
ネットレイティングス公表の7月の利用者
 インターネットの「視聴率調査」を実施するネットレイティングスが公表した7月の利用動向調査(下の表を参照)によると、楽天トラベルの増加が最も大きい。楽天トラベルはこの結果について、「レジャー部門の強化がユーザーに浸透したのでは」としている。楽天トラベルは昨年、宿泊施設に対しての契約問題を収め、従来からのビジネス需要に加えてレジャー部門の強化を進めていたところ。2004年はアクセスに伸び悩みがあった模様だが、2005年は順調に伸び、さらに今年はこれに上乗せした。楽天トラベルでは「楽天ANAトラベルオンラインでは、『足』と『宿泊』を一体として提供でき、さらに利用者の増加に期待したい」ともいう。
  これに対して、リアル店舗も展開する中では最も伸びたのはJTB。ネットレイティングスでは「いよいよ本業で断トツの企業が、ネットでも本気を出してきたのでは」との見方を示す。JTBグループのサイトを運営するi.JTBによると、これまでのイメージ展開から宿泊を中心とした商品への誘導、5月から開始した無料メールマガジンによる消費者へのアプローチで、サイト利用者のリピーター化等で、利用者の増加につながったとの見方だ。機能としても、簡単検索の利用者が増えているほか、国内宿泊商品でも増販につながっているという。
昨年6月には航空券付き宿泊プラン、今年2月にはJR券付き宿泊プラン、2007年春を目処に、海外旅行のダイナミック・パッケージ展開を予定し、「足+宿泊」の旅行商品の提供も進んでいる。今後は、従来は支店を訪れていた顧客のアクセスだけでなく、ダイナミック・パッケージの投入で新たな利用者の開拓にも本腰が入る。

Yahoo!トラベルは利用者減も「購買」利用者数は増加

 ネットレイティングス調査による利用者調査で、前年同月比0.9%減の413万人となったヤフーはこの数値について、本紙に対し「あくまで利用者。実際に購買する『利用者』は増えている」(Yahoo広報)と説明。利用者は減っているが、Yahoo!トラベル利用者の「購買力は高まっている」とアピールする。ヤフーによると、昨年の7月時点と比べ、ヤフーのトップページから「トラベル」への誘導が減っていることが今回の調査での利用者が減少した主な理由としている。事実、Yahoo!トラベルに海外航空券を提供する旅行会社のひとつは「夏の時期、着実に販売は増えていた」という声も聞かれる。
 この購買力が高いことを示す説明として、「取扱高、件数とも約2倍」(Yahoo広報)としており、業績の好調さを強調、利用者の購買活動が活発化しているという見方だ。また、こうした購買意欲の高まりを捉え、ニーズも多様化。収益力を高める素材として高品質、つまりは高額商品を販売する「Yahoo!トラベル 旅上撰」を公開し、取扱額の増加を志向する動きを推し進めているところだ。
 一方で取扱高、件数の増加の要因はビジネス需要を獲得するキャンペーン、特集企画が寄与している様子もある。出張需要については、特に国内において「ヤフー・ビジトラプラン」として最大1000円分のクオカードをプレゼントするキャンペーンを展開した。これまでの集客力重視から、「ヤフー」という日本では最も集客力のあるサイト内で、購買につなげる動きを旅行分野でも強く打ち出し、利用者を実際の購買行動へ誘導しているようだ。
 

5年遅れの日本ネット旅行市場も今後は拡大

GTO 副社長の後藤氏
GTO 副社長の後藤氏
グラフ
 日本で初めて「ダイナミック・パッケージ」を導入したグローバルトラベルオンラインの後藤淳一取締役副社長は、現在の日本のインターネット旅行市場は「欧米に比べ、5年以上遅れている」との認識だ。オンライン販売では楽天トラベルとYahoo!トラベルが2強として競り合っているが、市場規模、流通構造、そして最も大きな点では、サイトの豊富さという点で技術的にも遅れているという考えだ。
「現在、アメリカに誕生している旅行商品の総合旅行比較サイト『SideStep』、『Kayak.com』などが日本でも出現し、消費者の利便性を考えた形になっていく」という姿が後藤氏が予測する10年後、日本でのオンライン市場だ。この「Kayak.com」がアメリカで支持を集める理由のひとつとして、同社が展開する「Fare Buzz」機能。これはサイトに掲載している航空券の料金がどのように変動したか、履歴をグラフで表示するもの。
 株価の変動と同じように、料金の変動が一目で分かることから、消費者は「買い時」であるか否かの判断をしやすい。また、ニューヨーク(JFK)/ロサンゼルス(LAX)間の場合、航空会社14社、乗継回数なども含め価格が比較できる網羅性もダイナミック・パッケージが進むアメリカならではの進化だ。ただし、こうした機能を全面に打ち出したインターネットでの購買力を高める動きは、日本では遅れている、というのが実情だろう。

今後も競争は続く

楽天トラベル社長の山田氏
楽天トラベル社長の山田氏
 こうした遅れは、日本の流通構造が特殊な契約形態であること、鉄道と航空では接続性が無いことなどを要因にあげることも多い。こうした点に風穴を開ける動きとして、楽天トラベルと全日空が設立した楽天ANAトラベルオンラインがあげられる。ただし、後藤氏が言うダイナミック・パッケージは「消費者に可能な限りの選択肢を与える」という意味を含み、料金や自由な旅程という意味では「ダイナミック」であるが、交通手段を幅広く取り揃えるという「ダイナミック」さは片手落ちの状態が続く。
 「ダイナミック・パッケージで展開するサイトが増えることは歓迎」とする後藤氏の姿勢は、消費者の購買力を高めるという観点から、競争が行われ、オンライン市場が拡大するという未来図を描いているからだ。前述した様にヤフートラベルが購買につながる戦略を打ち出しているが、市場拡大とオンラインでの購買活動の促進という観点では、オンライン各社が機能性を高めるという点で、より競いあう必要がありそうだ。
 Yahoo!トラベルと楽天トラベルは、方向性としては全く逆を進んでいるようにも見える。右肩上がりに利用者を増やし、「購買する利用者」も必然的に増加する、というヤフーは利用者が増えなくとも、収益に結びつく利用者を伸ばす戦略に転換。具体的には、ビジネス客の取り込みに注力している、と考えられる。一方、楽天トラベルは従来の強みとしていたビジネス客からレジャー客へと集客の向きを拡げている。
 ただし、これらはどれも「正解」とは言えないだろう。特に、アクセス数からすると、JTBを含め上位4社は群雄割拠の様相を呈している。その中でも、ヤフーなどの「広告型」と、楽天トラベル・JTBの「商品提供型」で、今後の消費者の趣向・動向が分かれていくかも注目されるが、ネットでの購買活動につながる消費者の動きを捉えることは今後も試行錯誤が続きそうだ。