現地レポート:韓国、33の観音聖地を巡るツアー

  • 2010年8月20日(金)
韓国の新しい旅行スタイル
33観音聖地巡礼とテンプルステイ


 「安・近・短」志向と韓流ブームで、一気に日本人観光客が増加した韓国。2008年のウォン安によるショッピング旅行も加わり、その人気は今も変わらない。しかし、訪問地はソウルに集中。そのほか済州島や釜山など一部の地域へのツアーもあるが、さらなる韓国旅行の拡充には新しいデスティネーションや周遊型旅行への展開が望まれる。そこで注目されているのが、「韓の国33観音聖地巡礼」。癒しや安らぎを求める人々のニーズにあった旅行スタイルとして、すでに商品化もされている。先ごろ、韓国観光公社(KTO)と韓国仏教文化事業団、韓の国33観音聖地事務局が共同で実施した視察ツアーに参加し、体験してみた。
                    
                    
お遍路参りからヒントを得て巡礼ツアーを創設

 「韓の国33観音聖地巡礼」とは、KTOと韓国仏教文化事業団が共同で開始したお寺の巡礼事業だ。韓国には元来、巡拝の習慣はないが、現代の日本で心の安寧を求めるお遍路参りの人気が高まっていることに注目。韓国国内の古刹・名刹のなかから、33の韓国聖地を厳選し、循環型観光ルートとしてプロモーションしている。

 韓の国33観音聖地日本事務局の事務局長である寺崎嘉幸氏は「最近の低価格志向や旅行の形骸化を憂慮し、旅の本質への回帰と旅行文化の創造に寄与することを望んで企画した」と観音聖地巡礼の創設の意図を説明。新しい韓国旅行のスタイルとしての定着をはかる考えだ。また、韓国側としてもお寺という観光文化遺産を基点に地方文化を掘り起こすことで、地域活性化や交流人口の増大、経済波及効果なども期待できるとしている。

 すでに、日本でもジェイティービー(JTB)や日本旅行、ひろでん中国新聞旅行、中日旅行会など、10社以上が33観音聖地巡礼を取り入れた商品造成を手がけている。今回の視察ツアーにも全国から旅行会社9社とメディア4社が参加しており、関心の高さをうかがわせた。



韓国仏教「曹渓宗」の総本山と韓国の三大観音聖地「洛山寺」

 視察ツアー最初の巡礼地は「曹渓寺」だ。ソウル市内のビル郡に位置するが、1700年の伝統がある、韓国仏教の最大宗派「曹渓宗」の総本山である。寺の内部には金色に輝く全長5メートルほどの仏像が3体並んでいるほか、柱にも色鮮やかな装飾が施され、とても華やかな雰囲気だ。幸運なことにこの日は「韓・中・日の合同法会」が開催されており、関係各所の計らいで3ヶ国の僧侶による法要の末席に参加する、貴重な体験ができた。

 その後、国宝級の文化遺産と古刹が点在し、四季折々の自然景観と韓国伝統文化が息づく江原道へ移動。本日2番目の巡礼地となる韓国の三大観音聖地のひとつ「洛山寺」を訪問した。ここは敷地が東海岸の海岸沿いに位置する珍しい立地のお寺。東海から昇る壮観な日の出を観賞しに、多くの巡礼者が集まる名刹だ。1日のうちに都会の中の大寺院と自然に囲まれた古刹といった異なる雰囲気を味わえるのは、巡礼の旅ならではの体験だ。

 さて、巡礼の旅にはもうひとつ、楽しみがある。それは各寺に置いてある御朱印を集めること。もともとは参拝時、お寺で写経したお経を奉納し、その証としてお寺の御朱印を押してもらっていた。参拝した証であるとともに、功徳の証にもなるものだ。

 そこで、韓の国33観音聖地では、韓国の布地を使ったオリジナルの御朱印帳を用意。参加者に2000円で配布する。御朱印帳には各寺の由緒などが書かれたページがあり、参拝するとそのページに朱印を押してもらえるという仕組みだ。このほか、巡礼の旅のグッズとして、公式ガイドブック「巡拝のしおり」が1000円で販売されているほか、KTOでは33観音聖地を巡拝した人には修行の徳をたたえる結願証を授与するという。



メインテーマはテンプルステイ

 今回の視察のメインは、韓国の歴史ある禅仏教の聖地でのテンプルステイだ。テンプルステイを体験するのは「月精寺」。国宝の「八角九階石塔」を筆頭に多くの宝物を有し、仏教の聖地として数多くの門徒から神聖視されている名刹だ。敷地は針葉樹林に囲まれ、静謐な空気に包まれた雰囲気がある。

 到着後、まずオンドル(韓国伝統の床下暖房)のある宿舎部屋で修行衣に着替え、僧侶から滞在中の作法や注意事項の説明を受ける。お寺では挨拶や感謝などを表すときには合掌する。合掌は日本と共通だが、礼拝は五体投地が基本型。正座の体勢から両肘と胸、額まで床につける様式となる。

 また、食事は仏教で信者が守るべき五戒のひとつ「不殺生」を実践する菜食であるが、旬の素材をいかした味付けだった。ここでは食事の事を「供養」といい、あらゆる食材に感謝の気持ちを持って残さずいただくのが作法である。夕の供養後、僧侶を囲んでお茶会があり、韓国茶を頂きながら仏教の今昔話を聞き、その後に数珠を作った。就寝は午後9時と早い。というのも明朝の4時の御勤め礼拝に参加するからである。

 朝のお勤めでは、静謐な本堂で心にしみこむ読経にあわせ、礼拝。その後、別院で108回の礼拝(五体投地)を体験するのだが、これが非日常の極致である。というのも最初のうちはもろもろの雑念を抱えているが、50回目頃からは、ただただ無心に繰り返して残りの回数すらも忘却していた。そして終了の合図で我にかえるのである。四苦八苦(108煩悩)からの解放感や満足感に浸ることができる瞬間でもあった。

 その後、宿舎の寝床を片づけ身の回りを整理して、テンプルステイは終了。参加者は、異口同音に「テンプルステイは非日常体験と同時に、誰もが持っている心の中の仏性を呼び覚ます体験になる」と感想を語った。テンプルステイ自体は2002年から韓国の国家プロジェクトとして開始されており、現在33観音聖地を含め、100ヶ所の寺で受入可能。昨年の宿泊数としては日本が1771泊、米国が1228泊、ドイツが385泊、カナダが379泊など、各国から参加する人も増えているという。




仏教文化以外の観光要素も

 巡礼の旅とはいえ、仏教以外の観光も楽しめる。例えば、「洛山寺」へのお参り後の夕食では、秋に行なわれる「襄陽松茸祭り」で有名な松茸入りのプルゴギを食し、翌日は江陵へ移動して、朝鮮時代の家屋が保存され、訪問者が伝統料理体験や伝統芸能公演が鑑賞できる「船橋荘」を視察。韓流ドラマ「ファン・ジニ」「宮」のロケ地としても有名な場所だ。

 また、海岸線を走る「海列車」に乗車。車内の座席は海側を向いているユニークな列車で、ギネスブックに「最も海に近い駅」として登録されている「正東津駅」へ移動しながら、目前に広がる海の景色を堪能できる。そのほか、韓国の5000ウォン札に描かれている古民家の「烏竹軒」や、エジソンが発明した電灯や蓄音機など希少な収集物が展示されている「チャムソリ博物館」を観光し、韓流スターのペ・ヨンジュン氏が絶賛して有名になったオーガニックな伝統韓定食を昼食でいただくなど、各地の自然や食、文化をたっぷりと楽しめる。

 今回の視察は新しい観光資源の視察を通して今後の商品開発につなげていくことを主旨に催行したものだが、参加者は観光的な要素が多い上、精神的にも日本の旅行者にアピールできるとして、手ごたえを感じていたようだ。KTOや韓国仏教文化事業団、江原道観光事業部をはじめ、関係者それぞれが本物の「心の旅」を希求して作りだしたこの33観音聖地巡礼を、新しい韓国の旅行スタイルとして期待したい。


取材協力:韓国観光公社(KTO)、韓国仏教文化事業団、韓の国33観音聖地事務局
取材:椛島幸二
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