空港で最先端ロボのオモテナシ続々 人手不足、感染防止担う

ターミナルを巡回警備するロボット=関西国際空港
ターミナルを巡回警備するロボット=関西国際空港

多くの人が旅の夢をふくらませる空港は、近未来を予感させるショーケースでもある。警備や清掃、接客…。関西国際空港などはさまざまな業務でロボットの導入を推進。省力化やコスト削減という経済的理由に加え、最先端技術の実験場として空港を活用する狙いもある。人との出会いだけでなく、ロボットとの「出会い」も空港での楽しみになりつつある。

死角カバー

新型コロナウイルス感染が落ち着き、客足が戻り始めた関空第2ターミナル(T2)の国内線出発フロアで、見慣れない物体が旅客の目をひいている。

「パトロール中です。道を開けてください」

そう呼びかけながら走っているのは、10月下旬からT2とJR・南海の関西空港駅に導入された自律走行型巡回監視ロボット。

360度を見渡せる全方位カメラ、超音波や熱感知センサーを搭載。自分の位置を特定すると同時に、障害物との衝突を避ける。異常を感知した場合は警備員に通報。空港を運営する関西エアポートの担当者は「死角をカバーし、高度なセキュリティー体制を実現できる」と話す。

全国で進む

関空では他に自律走行型の清掃ロボット計3種類を昨年4月から本格導入。広いフロアを高速できれいにするタイプ、事務所などをきめ細かく清掃するタイプは、いずれも床を水洗い。もう一つはカーペットなどを吸塵するタイプだ。

ターミナルの床を清掃するロボット=関西国際空港
ターミナルの床を清掃するロボット=関西国際空港

ロボットによる空港業務の肩代わりは全国で進む。佐賀空港では昨年12月、全日本空輸(ANA)と豊田自動織機が共同開発した手荷物搬送ロボットを実証実験。ANAホールディングス広報は「他空港での利用も含め実用化に向けて検証している」と話す。

旅客に「おもてなし」を提供する人型ロボットも登場している。神戸空港では今年9月、IT企業のサイバーエージェント(東京)と大阪大大学院基礎工学研究科が共同で、10体のロボットによる接客の実証実験を行った。

ロボットに話しかけるとターミナル情報を教えてくれたり、飲食店の「おすすめメニュー」を紹介してくれたりする。回答は2人のスタッフが遠隔で実施。実験を手掛けた同研究科の石黒浩教授の研究室がデータを解析中だ。

羽田空港ではすでに昨年6月から、高性能カメラやセンサーを搭載した遠隔案内ロボットが出発ロビー案内所で稼働しており、関空でも同様の接客ロボットの導入を検討している。

羽田空港の出発ロビー案内所に設置されている遠隔案内ロボット(日本空港ビルデング提供)
羽田空港の出発ロビー案内所に設置されている遠隔案内ロボット(日本空港ビルデング提供)

万博も視野

高額な初期投資が必要なロボットを導入する背景には、旅客需要の回復をにらんだ空港の戦略がある。

新型コロナウイルスの感染拡大で旅客が急減する以前、全国の空港が訪日外国人客でにぎわった。関空も令和元年度の総旅客数が約2877万人に達し、受け入れ能力が限界に近づいた。人手不足をロボットで補い、人件費を減らすことが急務になった。

関西エアの権藤晃治・関西空港運用部マネージャー(62)は「清掃業務などは特に人の確保が難しく、ロボットによるコストダウン効果は大きい。旅客が回復すれば、いろいろな分野でロボットの導入は進む」と見通しを語る。

感染防止のため、旅客とスタッフの接触をなるべく減らす必要が生じていることもロボット導入を後押ししている。

一方、関西エアには2025年の大阪・関西万博をにらんだ思惑もある。同社の山谷(やまや)佳之社長は「万博のために訪れる外国人にとって関空をファースト(最初の)パビリオンにしたい」との構想を描く。

同社広報は「万博に向けた実証実験で、空港ほど広い場所を提供できる施設はあまりない」と話す。ロボットをはじめ先端技術の実験に使わせてほしいとのニーズは増えているといい、関空のにぎわいを復活させるきっかけにしたい考えだ。

顔認証、非接触で感染防止

ロボットの活用以外でも空港、航空会社では自動化が進む。なかでも、新型コロナ感染防止のための「非対面」「非接触」として、国際線搭乗手続きで顔認証技術を活用するシステムを実用化している。

日本航空と全日空は成田空港で7月から本格運用(日航は羽田でも)。自動チェックイン機で顔写真とパスポートを登録すれば、保安検査場と搭乗ゲートを顔認証で通過でき、パスポートと搭乗券を提示する必要がない。

また日航は自動チェックイン機と自動手荷物預け機のタッチパネルに赤外線センサーを取り付け、画面に触れなくても操作できる非接触化を、各地の空港で順次進めている。今月11日から大阪(伊丹)空港でも本格運用を開始した。

一方、税関は関空など全国7空港の国際線到着エリアに「電子申告ゲート」を導入済み。旅客はスマートフォンで携帯品などの申告書を作成し、専用端末で読み取らせて提出する。

その際に顔写真を撮影し、顔認証でゲートを通過するため、職員との接触はない。税関は「感染防止のほか、待ち時間を減らす効果も期待できる」としている。(牛島要平)

会員限定記事会員サービス詳細