コロナ下の「大実験」に2500万人は来場するのか ドバイ万博、低調な滑り出し

10月1日、ドバイで開幕した万博の会場(共同)

 アラブ首長国連邦(UAE)最大の都市ドバイで10月1日、ドバイ万博が開幕した。中東・アフリカ初の大規模な博覧会で、新型コロナウイルス感染症流行下では東京五輪に続く世界最大規模のイベントだ。国威発揚の機会ととらえるUAEは来年3月末までの期間中、2500万人の来場者を見込む。今後の国際イベントの行方を占う大実験場となるが、初日の人出は少なく、低調な滑り出しだった。(共同通信=橋本新治)

ドバイ万博の会場を歩く女性=10月1日(共同)

 ▽中継地として急成長

 ドバイは豊富な天然資源を背景に欧州とアジアの中継地(ハブ)として急成長した。世界一の高層ビル「ブルジュ・ハリファ」や、巨大なリゾート人工島「パーム・ジュメイラ」で知られる観光地でもある。ドバイ万博は「心をつなぎ、未来を創る」をテーマとして、日本など約190の国と地域が参加している。

 

 日本にとっては次回2025年の大阪・関西万博をPRし、各国に出展を呼び掛ける重要な機会になる。12月11日には万博会場の全体で日本文化を紹介する「ジャパンデー」が予定されている。

 ▽砂漠地帯に建設

 万博会場はドバイ郊外の砂漠地帯に建設された。面積は438ヘクタールにおよぶ過去最大規模で、報道によると、総工費は70億ドル(約7800億円)に上る。大阪・関西万博の1850億円の約4倍に相当する。ドバイ中心部からメトロが整備され、近くには宿泊施設やショッピングモールの建設も進んだ。

 初日、来場者の出足は鈍かった。日本貿易振興機構(ジェトロ)関係者によると、毎回開幕と同時に来場者がお目当てのパビリオンに走る姿が恒例だが、今回は閑散としていた。気温が40度近く、湿度も高い。少し歩けば、汗だくになる暑さがこたえる。にぎわってきたのは夕方からだった。中国館のパンダ型ロボットや、エジプトから運ばれた古代エジプトのひつぎが注目を集めていた。

中国館のパンダ型ロボット=10月1日(共同)

 ▽高いワクチン接種率

 18歳以上の入場者はワクチン接種証明書か、72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明の提示が必要になる。入場チケットを持っていれば、会場に隣接する施設で無料のPCR検査を受けられる。会場内ではマスク着用が義務付けられ、密を避けるように求められる。

 人口約1千万人のUAEで、必要なワクチン接種を終えた人は対象者の8割を超える。接種率は世界トップクラスで、1日当たりの新規感染者は万博開幕時点で200人台まで減少していた。

日本館の入場を待つ行列=10月1日(共同)

 ▽無料チケット

 前回イタリアのミラノ万博には2100万人が来場した。大阪・関西万博は2800万人を想定する。ドバイ万博が人口の2・5倍に当たる2500万人の来場者を達成するには外国人観光客が欠かせない。ドバイを拠点とするエミレーツ航空はドバイ便の搭乗者に万博入場チケットを無料提供し、UAE滞在期間にマイルをプレゼントするほどの大盤振る舞いだ。

 ドバイ万博は東京五輪同様に開催が1年延期されたが、海外からの観客受け入れを断念した東京五輪とは異なり、外国人観光客の受け入れに前向きだ。ドバイは昨年夏に受け入れを再開した。ハブとして投資や観光は地元経済に極めて重要であることが背景にある。

 ▽折り紙と幾何学模様

 日本館は「アイデアの出会い」をテーマとする。出会いを大切にし、外国から知恵や文化を吸収してきた日本の魅力を紹介する。開館式で中島明彦・駐UAE大使は「日本の豊かな自然、私たちのちょっとした心遣いといった日本らしさを感じてほしい」と話した。

日本館の開館式=10月1日(共同)

 建物は2階建てで、正面は折り紙をイメージした白い立体の格子で覆われている。「アラベスク」と呼ばれるイスラム美術と、「麻の葉文様」を組み合わせた幾何学模様が特徴で、中東と日本のつながりが表現されているという。別棟に回転ずしの「スシロー ドバイ万博店」も出店している。

世界の課題を問い掛ける日本館の展示=10月1日(共同)

 ▽映像、音、ミスト

 日本館は日本の原風景や歴史、文化を紹介するほか、地球規模の課題を問い掛ける内容になっている。来館者はイヤホンを付け、迫力ある映像と音、降り注ぐミストを使った演出を通じて日本の魅力を体感できる。最先端技術をユニークな模型で紹介するコーナーもある。来館者は1組36人のツアーに参加し、約1時間かけて館内を回る。

日本館の展示=10月1日(共同)

 一般公開最初のツアーに参加したイタリア人の工場経営者ドメニコ・タラントロさんは「人々の交流がうまく表現されていた。ビジュアル化の手法も素晴らしかった。ミラノ万博の日本館が好きで、来たいと思っていたんだ」と喜んでいた。

 ▽コロナ対策と行列

 ただ課題も見えた。感染対策として来館者を当初想定の半分に制限している。ツアーは1時間に3回だけ。自由な出入りはできず、予約も受け付けていない。このため行列ができやすく、暑さの中、待ち時間を嫌って立ち去る人が相次いだ。

ドバイ万博日本館で来場者に2時間待ちを伝えるスタッフ=10月1日(共同)

 開館式で初めて日本館の展示を見た日本政府関係者からは、ツアーの最後を飾る大阪・関西万博を紹介するコーナーに「改善の余地がある」という指摘もあった。ツアーの前半は視覚や聴覚に訴える精巧な構成だが、最後は大阪・関西万博の模型とパネルの展示だけになっていた。

大阪・関西万博をPRするコーナー=10月1日(共同)

 ▽バーチャル日本館

 今回、バーチャル日本館として二つのウェブサイトが立ち上げられた。日本館をオンラインで体験できるサイトと、地球の課題を解決するアイデアを共有するサイトだ。初めての試みだという。

 日本館の安藤勇生館長は、ジェトロで長く万博畑を歩んできたが、コロナ下でさまざまな試行錯誤を迫られていた。「万博は6カ月続く。通常最初は人気がない。後半に入って一気に盛り上がる。そうなることを願っている」と話していた。

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