行動制限緩和に期待感 感染防止と経済回復へ切り札

チケットの引換窓口には、ワクチンの接種証明書かPCR検査の結果を求める張り紙がされていた=2日、ペイペイドーム(村本聡撮影)
チケットの引換窓口には、ワクチンの接種証明書かPCR検査の結果を求める張り紙がされていた=2日、ペイペイドーム(村本聡撮影)

新型コロナウイルスのワクチン接種を前提とした行動制限緩和に関する検討が進む中、観光などコロナ禍の打撃を大きくうけた業界の間で期待が高まっている。接種者の優遇は一部のサービスで始まっており、政府の取り組みで使い勝手がよくなる効果もありそうだ。一方、ワクチン接種と行動制限緩和を結びつけることは、接種の強制や非接種者の差別を招くとの声もある。ただ、コロナ禍の長期化の悪影響は深刻さを増しており、感染防止と経済回復を両立させるため行動制限緩和を切り札にする必要性も指摘されている。

「ワクチンを接種済みの人が少しでも安心して旅行できるきっかけになれば」

プリンスホテル(東京)の広報担当者は、行動制限緩和に期待を示した。

政府が検討中の案はワクチン接種の進展を前提に、十分な感染対策をとる飲食店での酒類提供や、接種を終えた人の県境を越えた移動を容認することなどが含まれている。こうした内容が実現すれば、観光業界には待望の追い風だ。

プリンスホテルはすでに全国25カ所のホテルで、接種済みの人とその家族ら向けの特別プランを販売。家族らに未接種者がいれば無料でPCR検査を受けられ、専用の朝食会場も用意される。担当者は「これからは安心安全が利用客の選択理由のベースになる。ホテル側もこうした特別プランで区別化を図っていく」と話す。

こうした中、政府は接種証明の利便性向上にも取り組む考えだ。現在の接種証明書は紙で発行されており、利用するには持ち歩く必要があるが、政府は「いつでもどこでも使える」よう、接種情報を利用者のスマートフォンに送信するデジタル化に着手。システムの移行は「年内にできる」と説明している。

大手外食チェーンの担当者も政府の取り組みについて、「外出するきっかけにつながる」と歓迎。政府の新型コロナ感染症対策分科会が提案するワクチン接種証明と検査の陰性証明を組み合わせた「ワクチン・検査パッケージ」を使ったキャンペーンを検討したいとしている。

一方、ワクチン接種と行動制限を結びつけることには慎重さも求められている。既往歴のためにワクチンを接種できない人もおり、義務化は接種の強制やいわれのない差別につながる恐れがあるからだ。

ただ、緊急事態宣言などに基づく行動制限が長期化する中、いつまでも経済活動を縛り続けることへの懸念は強まっている。

欧米では飲食店や劇場、ジムなどの利用にワクチン接種を義務化する動きもある。欧州連合(EU)では入国時の自主隔離期間の免除などに使える「ワクチンパスポート」も導入された。国内でもプロ野球福岡ソフトバンクホークスが主催試合で接種証明などを入場の条件とした。義務化なくして実効性の担保は難しいとの見方は強い。

経済同友会の桜田謙悟代表幹事は8月末の会見で「国全体のため何を義務化して、何を個人の自由に任せるべきか。国民が関心を寄せている問題こそ、もっと突っ込んだ議論を」と、接種の義務化を視野に入れた検討の必要性を訴えた。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「国内の接種率は50%に近づいており、既に接種証明を積極活用すべき分岐点に達している」と指摘。義務化については「国民の理解を得られないかもしれないが、政府が推奨することも検討すべきではないか」と話している。(福田涼太郎、蕎麦谷里志)

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