過敏症患者に快適な宿を 福井、化学物質持ち込まず
人工的な香料や添加物などに含まれる化学物質で体調不良を起こす「化学物質過敏症」に悩む人が増える中、福井県美浜町の農家民宿「まつぼっくり」は、化学物質を「使わない、持ち込ませない」宿づくりに挑戦している。建材や食材に配慮し、宿泊客も限定。おかみの松井あけみさん(62)は「生きづらさを抱える過敏症患者のよりどころになれれば」と話す。
現在の形で営業を始める2019年6月まで約45年間、普通の民宿として海水浴客を中心に受け入れていた。新たなスタートのきっかけは、夫の明彦さん(65)の発症だった。17年ごろから人工的な香りが気になり始め、徐々に症状が悪化。柔軟剤や芳香剤の香りをまとった客とすれ違うだけで頭痛がするようになり、民宿の手伝いもできなくなった。
「私がお客さんを呼ぼうと頑張るほど、夫が苦しむ」。あけみさんは、このままの形では営業を続けられないと判断。一時は廃業も考えたが、同じように過敏症に悩む人のための農家民宿として再出発を決意した。
キッチンと浴室の改装では、自然由来のワックスを塗った木材を使用。シャンプーや食器用洗剤、調理器具などは化学物質を含まないものにした。コメや野菜も無農薬。過敏症には個人差があるため、客に食材や調味料を一つ一つ確認してもらい、食べられるものを用意する。客からお薦めの商品を教わることもあり、患者や家族の交流の機会にもなるという。
宿泊は1日1組限定。予約時に、普段から化学的な香料の入った洗剤や柔軟剤を使っていないかどうかなどを確認する。宿の中に化学物質を持ち込まないよう、一人でも使っている人がいれば予約を断る場合がある。
「ようやく胸いっぱい息ができた」「心身ともに解放された」と喜び、リピーターとなった利用者も。あけみさんは「過敏症に苦しむ人は全国に大勢いる。これまで泊まりがけの旅行を諦めていた人たちの役に立ちたい」と願っている。〔共同〕