中国 日本人の短期滞在ビザ免除措置を30日から実施と発表

中国外務省は、日本人が中国を訪れる際に短期滞在のビザを免除する措置を11月30日から実施すると発表しました。ビザが免除されるのは2020年3月以来で観光やビジネスでの訪問がどこまで増えるのかが焦点です。

中国外務省は22日の記者会見で日本を含む9か国に対して短期滞在のビザを免除する措置を今月30日から実施すると発表しました。

ビザの免除は出張や旅行などで中国を訪れる多くの日本人が利用していましたが、中国政府は、2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて停止しました。

今回の措置では、人々の往来の利便性を高めるためだとして、これまで15日としていたビザなしの滞在期間を30日に延長し、実施期間は2025年末までとしています。

中国政府は、コロナ禍で停止したビザ免除の措置を2023年、シンガポールなどを対象に再開し、その後、ヨーロッパやオセアニアなどの国々を相次いで対象国に加えていました。

しかし、日本は対象国に入らず、日本企業などからは再開を求める声が相次ぎ、日本政府が中国政府に再開を求めていました。

4年8か月ぶりとなるビザの免除で観光やビジネスでの訪問がどこまで増えるのかが焦点です。

外国企業の投資を呼び込み景気押し上げるねらいか

中国では、不動産不況の長期化で景気が減速する中、外国企業の投資意欲が低下しています。

中国国家外貨管理局が11月8日に発表した国際収支統計によりますと、2024年7月から9月までの外国企業からの直接投資は81億ドル、日本円でおよそ1兆2500億円のマイナスとなりました。

外国企業の直接投資がマイナスになるのは2四半期連続です。

中国に進出する日系企業でつくる団体が11月20日に発表した調査では44%の企業が中国への投資を縮小する方針を示していて、日系企業の間でも慎重な姿勢が続いています。

こうした中、中国政府としては、短期滞在ビザを免除することでビジネスマンや旅行客の往来を増やすとともに、外国企業からの投資を呼び込み、景気を押し上げるねらいがあるとみられます。

中国政府によりますとこの1年で29か国を対象に短期滞在のビザの免除措置を実施し、2024年7月から9月までの3か月間で中国を訪問した外国人は去年の同じ時期と比べて48.8%増え、このうちビザなしで訪れた外国人は78.6%増えたとしています。

最近の日中関係は

日本と中国の間では課題や懸案が山積し、両国関係はこれまで改善と悪化の局面を繰り返してきましたが、中国側では関係を安定させたいという動きも相次いでいます。

2024年9月には東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受けた中国による日本産水産物の全面的な輸入停止措置について、中国が段階的な輸入再開に向けて対応を進めていくことなどで日本と合意しました。

11月中旬にはAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議で、ペルーを訪れた石破総理大臣が習近平国家主席と初めて首脳会談を行い、建設的で安定的な関係を構築していくという方向性を確認しました。

中国が日本との関係安定化に動く背景には、国内経済の減速が鮮明になる中で日本からの投資などを呼び込みたいねらいがあるとみられます。

また、アメリカのトランプ次期政権との間で対立が激しくなる可能性も念頭にアメリカ以外の国との関係を今のうちに安定させたい中国側の思惑もうかがえます。

ただ、日中間では、沖縄県の尖閣諸島周辺の海域で、中国の公船による領海侵入が繰り返し起きているほか、靖国神社では中国人によるとみられる落書き事件が相次ぐなど、日本国内の対中感情は依然として厳しいと指摘する声は根強くあります。

また中国では2024年6月、東部の江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスが襲われ、日本人の親子と中国人女性が巻き込まれた殺傷事件が起きたのに続いて、9月には、南部の深センで日本人学校に通う男子児童が刃物で襲われて死亡する事件が発生し、中国国内での日本人の安全確保は大きな課題となっています。

さらに、改正反スパイ法の施行と中国当局による摘発の強化に対して、中国に滞在する日本人の間で強い懸念がある中、短期滞在のビザの免除措置を再開しても観光やビジネスで中国を訪れる日本人はすぐには増えないのではないかという見方も出ています。

日本企業からは歓迎の声

中国外務省が日本人が中国を訪れる際の短期滞在のビザを免除する措置を再開することについて、日本企業からはビジネス環境の改善につながるとして歓迎の声が出ています。

中国のビザをめぐっては日本の経済界の代表らが参加する「日中経済協会」の訪問団が2024年1月に中国・北京を訪れて中国の指導部や政府の高官らと会談した際に短期滞在のビザを免除する措置の再開を求めていました。

企業の間ではビザ取得の手続きが煩雑になっていたことから中国への出張をためらうなどビジネスへの影響も出ているということで、ビザの免除が再開されれば、現地でのビジネスを後押しする動きとなりそうです。

中国に進出する日系企業でつくる「中国日本商会」は「心から歓迎する」とするコメントを発表しました。

そのうえで「今回の決定が日中両国の経済交流強化に不可欠である人的往来の活発化につながることを強く期待している」としています。

中国 国有企業「中国にとって日本の旅行客は常に重要」

上海で開かれている旅行博覧会の会場では関係者から期待の声が聞かれました。

中国でリゾート施設を運営する企業の担当者は「私たち旅行業者にとってとてもいい話です。もっと多くの日本からの旅行客を私たちのリゾート施設に呼び込みたいです」と話していました。

旅行関連の中国の国有企業の担当者は「ビザ免除の再開は両国の人たちの期待でした。中国にとって日本からの旅行客は常に重要です。中国国内の対日感情の問題は大きくはなく、お互いに交流していけば、次第に雰囲気はよくなり、昔のように、両国の民間往来がもっと頻繁にそして、さまざまな分野に広がっていくでしょう。修学旅行などで日本の子どもたちが中国に来ることをきっかけに両国関係が緊密になってほしい」と話していました。

また、日本政府観光局上海事務所の薬丸裕所長は「訪日旅行を活性化させる立場から言えば、中国に来る人が増えると両国間の往来が活発化し航空便が増えて安くなったり、直行便で行ける場所が増えたりするので、中国人にとっても日本により行きやすい環境につながると思います。ビザ免除措置が再開すれば、往来が活発化して、お互いの国の理解促進にもつながりますので非常にいいと思います」と話していました。

石破首相「日中両国の交流が盛んになることを期待」

石破総理大臣は、22日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「今後の日中関係の基礎として、両国の国民が交流していくことが最も重要だと考えている。中国側にはビザを免除する措置の早期再開を累次にわたって要請し、さまざまなレベルで意思疎通を行ってきた。今回の免除措置によって、両国間の交流がいっそう盛んになることを期待している」と述べました。

また林官房長官は臨時閣議のあとの記者会見で「日中関係の基礎は何よりも国民の間の交流にあることから、中国側にはビザを免除する措置の早期再開を累次にわたり要請し、さまざまなレベルで意思疎通を行ってきた。今般の措置により、日中両国間の交流がいっそう円滑化されることを期待する」と述べました。