輪島と珠洲の事業者 少なくとも6割「営業できる状況にない」

能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市と珠洲市で、地元の信用金庫が取引先の事業者を対象に聞き取りを行ったところ、少なくとも6割が「営業できる状況にない」と回答しました。

石川県能登町に本店がある興能信用金庫は、能登半島地震を受け、取引先の事業者に連絡を取って状況の聞き取りを進めています。

その結果、輪島市と珠洲市の支店と取引のある1600余りの事業者のうち、少なくとも1200の事業者が店舗や工場などの建物に被害を受けたことがわかりました。

そして、少なくとも980の事業者が「営業できる状況にない」と回答したということです。

「営業できる状況にない」とした事業者の割合は、▽珠洲市の支店の取引先では7割、▽輪島市の支店の取引先では5割を超えています。

調査を行った興能信用金庫によりますと、業種別に見ると、特に小売業と観光業でほとんどの事業者が営業できていないということです。

建物に被害があったため再開の見通しが立たないとする事業者が多いほか、生活を立て直すのが先で、いまは仕事のことまで考えられないという事業者もいるということです。

輪島塗の事業者「1月1日から時が止まっているよう」

このうち、石川県輪島市で輪島塗の製造・販売を行ってきた八井貴啓さんの会社も、地震で被害を受けて営業ができなくなっています。

八井さんによりますと、市内にある店舗は建物が傾き、応急危険度判定では「危険」と判定されました。

また、同じく市内にある工房は全壊していて、製造も販売も再開の見通しは立っていないということです。

事業を立て直すためには店舗や工房を再建する必要がありますが、八井さんは、被災した地域の状況から、すぐに業者を見つけて工事を始められる状況にはないと考えています。

八井さんは「店舗や朝市通りの光景を見て、思考が停止していて、1月1日から時が止まっているように感じています」と話していました。

そのうえで八井さんは、今後について「従業員の給料をどうやって工面しようかと悩んでいます。まずは資金にめどが立てば、みんな動き始めると思います」と話していました。

被害受けた店舗に応急的な措置 営業続ける事業者

一方、石川県輪島市の商店街でメガネ店を営む木下伸一さんは、メガネの修理や交換を希望する人たちのために、地震の被害を受けた店舗に応急的な措置を施して営業を続けています。

木下さんの店では、地震の影響で店舗の窓ガラスがすべて割れるなどの被害を受けました。

木下さん自身も一時は避難所に身を寄せるなど、落ち着いた生活を取り戻せないなかでしたが、メガネが壊れて困っている客もいるのではないかと考え、割れた窓ガラスの代わりに板を取り付けるなどの応急的な措置を施して営業しています。

木下さんは「私も地震でメガネが壊れたので、修理をしたい人がいると思いました。メガネ店が再開していない珠洲市などからもお客が来ています」と話していました。

一方、今後の再建については「建物を修復するための資金をなるべく早く借りることができたらありがたいです。輪島市は私自身が育ってきた場所なので、ここに残ってなんとかして町のにぎわいを取り戻したいと思っています」と話していました。

調査した信用金庫「力あわせて事業者を支えることが求められる」

取引先の事業者に聞き取りを行っている興能信用金庫の田代克弘理事長は「事業主が避難したケースもあり、なかなか現状がつかみづらい状況だ。災害においては緊急、再開、復興とフェーズが変わっていくが、この地域においてはまだ緊急の段階にあり、事業の再開というフェーズではない」と述べました。

そのうえで、コロナ禍や物価高騰の影響を受けてきた事業者の経営は一層厳しさを増すとして、制度の拡充などによる資金繰りの支援が不可欠になると指摘しました。

また田代理事長は、この地域の復興に向けた道筋について、「輪島市や珠洲市などの奥能登地域には非常に魅力的な観光資源があり、その資源によって地域の生産性が支えられている。観光に携わる事業者を盛り立てていくことが、地域に活気を取り戻し、再建をしていく前提になる」と述べました。

そして田代理事長は「金融機関と商工会議所、そして行政が連携して情報を共有し、支援につなげていくことが重要だ。関係機関が力をあわせて事業者を支えていくことが求められている」と述べ、事業者のサポートに力を尽くしたいという考えを示しました。