第10回星野リゾート、なぜ西成周辺?観光需要戻り「豪華さではなく希少性」
星野リゾートが手がける観光ホテル「OMO7(おもせぶん)大阪」が昨年4月、大阪市内にオープンした。「日雇い労働者のまち」として知られる大阪・西成の釜ケ崎のすぐ北側に立地し、「高級ホテルがなぜここに?」と話題になった。
「アクセスが抜群によい。大阪観光のための立地として、ベストになるポテンシャルがある」
総支配人の中村友樹さん(41)は語る。
最寄りの新今宮駅はJR線や南海線など4路線が乗り入れ、地下鉄の動物園前駅からも徒歩5分。
関西空港からは特急で40分ほど、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)にはホテルから毎日2往復、送迎バスを出し、30分ほどで到着する。
ホテルの敷地には元々、化粧品工場があったが1970年代に移転した後、長年空き地となっていた。
所有する大阪市は、地域活性の場にしたいと企業を募集し、星野リゾートが手を挙げた。
周囲には、1泊1500円程度の簡易宿所や1泊5千~7千円のビジネスホテルが並ぶ。
OMO7大阪ではツインルーム(食事なし)で3万8千円から。
コロナの影響で436部屋の5割ほどの稼働にとどまっていたが、観光需要が戻りつつある現在は7割を開放し、週末は満室近くの予約になる日もあるという。
全体の3割ほどの外国人のさらなる誘客が課題だ。
中村さんは「アジア圏にとどまらず、欧米豪からの観光も望める」とし、2025年に開かれる大阪・関西万博を視野に「大きな機会で、インバウンド率はより一層上昇していくのではないか」と期待する。
ここでの開業には別の理由もあるという。
「街そのものが飛び抜けて魅力的」と、全国各地で勤務した中村さんは語る。
南北を釜ケ崎がある西成エリアと、通天閣が立つ新世界エリアに挟まれ、「よりダイレクトに、よりディープに大阪を感じられる」。
OMO7大阪では、ホテルの従業員が開拓したところに宿泊者を連れていくツアーを実施している。
開業1年の今年4月からは、西成の三つの飲食店をハシゴするツアー「じゃますんでー、なにわ店主と出会う西成はしご酒」を始めた。
毎週木金土に実施し、オムライスやふぐ鍋をつつき、個性的な店主や常連客らと交流する。「よい意味で観光地化されていない大阪の下町のよさ」を体感してほしいのだという。
中村さんは話す。
「街や人が最大の魅力。物質的な豪華さではく、唯一無二の豊かな体験ができる場所です」(矢島大輔)