戻る観光客、人手不足のホテル 苦境克服へ協力・連携の動きも

吉田啓
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 新型コロナの5類移行から約3カ月が経ち、熊本県内でも観光需要が回復してきた。だが、宿泊業界では人手不足に苦しんでいるところもある。コロナ禍で離れた人材が戻らず、客室清掃や宴会の運営の人繰りに四苦八苦している。ライバル同士が手を組み、協力を模索する取り組みも始まった。

 日曜日の午前、熊本城天守閣前の広場は大勢の観光客でにぎわっていた。天守閣を背景に記念撮影をする人らからは、外国語も聞かれた。

 「宿泊はコロナ前の8割程度まで回復してきています」と、熊本市内のホテル関係者。台湾と熊本を結ぶチャーター便運航の影響もあり、海外からのインバウンド客も戻ってきているという。

 だが表情はいま一つ晴れない。せっかくの客足にも、それを受け止める人手が不足しているからだ。

 民間調査会社の帝国データバンクが4月、九州の企業を対象に931社から回答を得た人手不足に関する調査では、正社員が「不足している」と回答した企業の割合が、ホテル・旅館業界では80%を占め、100%だった飲食業に次ぎ、高い割合を示した。

 宿泊や宴会などで訪れた客と触れ合い、サービスを尽くして喜んでもらう。コロナ禍でその機会が減り、ホテルで働く魅力を感じられなくなった若者が離れたまま戻ってこない――。そうした背景があると、ホテル関係者は話す。

 県内のある人材派遣会社によると、ホテルや旅館の客室清掃員を派遣するには多数の客室に対応するため一定の人員を確保しておかなければならない。コロナ禍で宿泊施設からの仕事が減って損失を被った派遣業者には、宿泊施設への派遣を敬遠する動きもある。

 熊本ならではの事情もあるようだ。台湾積体電路製造(TSMC)の工場進出を控え、菊陽町を中心に県北部の労働需要が増加。給与や時給が好条件な働き口も多く、渋滞や駐車場不足などで自家用車通勤がしづらい熊本市中心部の職場を嫌い、県北部での就業を希望する人も目立つという。

 規模の大きなホテルでは、大口の宴会を同時に複数こなせないことや、チェックインの時間通りに宿泊客を部屋に案内することが難しいときもあるなど、人手不足の弊害も生じている。

 だが、ホテル側も手をこまねいている訳にはいかない。

 熊本ホテルキャッスルとホテル日航熊本、ANAクラウンプラザホテル熊本ニュースカイ。熊本の三つのシティーホテルが手を携え、苦境を乗り切るための試みを始めている。

 お互いの宴会担当の部長らが月1回顔合わせして情報や意見を交換。協力できることがないか話し合う。

 熊本のホテルが宴会を受けきれなければ「では福岡のホテルで」と、顧客を逃すことになる。それならばライバル同士でも協力しようと、意見が一致したのだという。

 取材に応じたホテル関係者は「人手不足は一朝一夕には解消しないと思う。工夫を重ねて乗り切り、再び、若者に魅力を感じてもらえる職場にしたい」と語った。(吉田啓)

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