御所で14年ぶり銭湯復活 古民家ホテル・レストランとともに

小西孝司
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 古い町並みが残る奈良県御所市の旧市街「御所まち」に昨年10月、1軒の銭湯が14年ぶりに復活した。廃業する銭湯が各地で相次ぐなか、活気にあふれているという。なぜなのか。

 JR御所駅や近鉄御所駅から徒歩数分。「御所宝湯」(御国〈みくに〉通り2丁目)は昔からの浴槽やタイル、鏡などを残す一方、番台をロビー方式に替え、壁には国内に3人しかいない銭湯ペンキ絵師の一人の田中みずきさんが葛城山と金剛山を描いた。浴室奥には、熱した石に水をかけて蒸気を発生させるフィンランド式サウナや露天の水風呂を新設した。午後2時の開店とともに、次々と客がのれんをくぐる。

 もとの宝湯は大正5(1916)年の創業。だが2008年、経営者の高齢化などのため廃業し、その後、市内の銭湯はゼロになった。県内の銭湯は経営者の高齢化や設備の老朽化、燃料費高騰などで年々減り、県消費・生活安全課によると15店しかない(昨年11月時点)。

 今回の復活を手がけたのは、21年に設立された「御所まちづくり」だ。古民家再生のまちづくりを手がける「NOTE(ノオト)奈良」(奈良市、大久保泰佑代表)と、「風の森」の銘柄で知られる「油長(ゆうちょう)酒造」(御所市)、せっけん・化粧品メーカー「フェニックス」(同)が出資した株式会社だ。

 NOTE奈良の浦山志穂子・プロジェクトマネージャーによると、18年に御所市から「宝湯復活に興味ありませんか」と提案されたことがきっかけだった。

 ただ復活させたのは銭湯だけではなかった。モリソン万年筆本店だった建物を使ったホテル「RITA(リタ)御所まち」(4室)▽自転車屋を改装し、部屋に自転車が持ち込めるホテル「宿チャリンコ」(同)▽元たばこ店で、地元食材や地酒を出すレストラン「洋食屋ケムリ」――の3施設と合わせ、「泊・食・湯」が分散したホテル「GOSE SENTO HOTEL」を開設。いずれの施設も元の部材を極力残す形で、徒歩数分の圏内に立地する。

 古民家や空き家を活用し、地域をまるごと宿泊施設とするのは、地震で被災したイタリアの村で始まった「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」と呼ばれる発想だ。国内では18年の改正旅館業法施行で、建物ごとのフロント設置や最低客室数の規制が撤廃され、分散型ホテルが実現できるようになった。

 NOTE奈良が銭湯を手がけるのは今回が初めて。実は、宝湯だけでは採算は取れず、ホテルやレストランの収益でカバーしようと想定していたという。

 しかし開業すると、地元の高齢者や学生だけでなく、ホテルの宿泊客や観光客、登山客、銭湯・サウナ愛好家らが訪れるように。「宝湯単体では赤字を想定していたが、平均すると想定の倍以上。1日数百人以上の日もあります」と浦山さん。「地元住民にとって、家風呂があっても、湯を沸かしたり洗ったりするのが面倒くさいという人は多いようです」

 全国から銭湯の再生や古民家活用を図る関係者の視察も相次ぐという。

     ◇

 にぎわい作りに貢献しているのが、宝湯の「番頭」を自認する太田有哉(ゆうや)さん(28)だ。

 太田さんは宇陀市出身。子どもの頃から大の銭湯・サウナ好きが高じて、大津市の銭湯での修業を経て「御所まちづくり」に入社。御所市に引っ越した。

 宝湯では寄付金を使って小学生以下が無料で入浴できるようにしたり、オロナミンCとポカリスエットを混ぜたサウナ後の定番ドリンク「オロポ」とカレーの新メニューを近所の食堂に作ってもらったり。御所まちと宝湯の間の人の流れも生まれつつある。

 「銭湯を日常使いにしてもらい、どんな人が来ても居心地のいい場所にしたい。サービスをもっと上げていきたい」。太田さんは次のアイデアを練っている。

 宝湯は平日は午後2時から、土日祝日は午前11時から、いずれも午後10時まで。大人440円(サウナは360円)。第2・第4水曜休み。(小西孝司)

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